生命の逸材者【その壱】
──外は寒い。流石は冬場というところか。だが、それでも俺は風にあたり空を眺めている。
理由はただ単に気まずかった。それだけだ。
(・・・・・俺は変わったもんだな)
自分自身で変化に気づいたんだ。少しは成長しているんだよな。
実際分からないもんだよな自分の変化って。だけどそれを理解したとき人は真の強さを得るんだ。
風が冷たいまま俺はひたすらに空を見ていた。
──同時刻、恋桜家
部屋の中は暖房がついておりいい感じの気温になっている。
「うーーん」
そんな中、恋桜学園の長である"恋桜秋音(こいざくらしおん"はなにやら唸っていた。
「どうかしたんですか?」
メガネをクイッと上げて会長である恋桜祐春は秋音に近づく。
「いやーちょっとね」
そう言ってパソコンの画面を会長の方に向ける。
「これは・・・」
画面に書いてあるのは何やら大会の広告みたいなものだった。
「"サバイバル対決"・・・これがどうかしたんですか?」
「これさーウチの学園も出ることになったんだよね」
「唐突ですね」
「唐突でしょ?」
秋音はニッコリと笑みを浮かべて会長を見た。
「・・・なんのために」
「見てわかるんだと思うけどこの大会はこの学園をPRするチャンスでもあるんだよ」
そう言って指をさしたのは大会の優勝者に進呈さてる景品だった。
そこに示されていたのは「賞金」の文字だけ。
「これのどこがPRになると?」
「もー相変わらず頭が硬いんだから。いい?この大会は世界規模なんだよ。それで一位になったら普通に考えて目立つでしょ?」
「あー」
会長は納得した。だけどどこか呆れたような顔もしている。
「参加者は10名・・・誰でもよいという条件・・・・か」
「そう。まあでも境川くんには出てもらいたいかな」
「彼は目立つのは嫌っていますよ」
「学園の為となれば動いてくれるでしょ」
「他に目処は?」
「ふっふっふ・・・」
何やら不敵な笑みを秋音はもたらした。
後日──
「断る」
俺は会長に呼び出されて何かと思ったら、サバイバルゲームに参加しろと来た。
なのでキッパリと断った。
「やはりか・・・」
「想定してんなら来ないでくださいよ」
「悪いが学園長命令なんでな。流石に痕跡は残しておきたい」
「・・・・やれやれ」
「学園長は学園のPRのためとおっしゃっていたが、それでもやる気はしないか?」
メガネをクイッと上げて会長はそう聞く。
「・・・興味がない」
「そうか」
会長はガッカリするどころか想定していたような表情をみせて動じていない。
「参加者は10名、自由に選べるそうだが・・・?」
「知らねえよ」
強引に話を進めてくる会長を俺はキッと睨みつける。
「おやおや・・・相変わらず厳しいね境川くんは」
後ろから声が聞こえて振り返るとそこには懐かしく見る学園長の姿があった。
「その様子だと境川くんをスカウトするのに苦戦していみたいだね」
「ええ」
「なら境川──このサバイバルゲームに参加しないと君は退学・・・これでどうだね?」
「そんな職権の乱用・・・」
「いいかい。これはお願いじゃない。命令だよ」
その声は初めて聴くものだった。鋭く冷たい声。その言葉に俺は背筋が凍った。
「・・・・・・ッ」
何者だこの学園長は・・・。
「聞いたところ君は生徒会にも入りたがらないようだね。全く近頃の若いものは困るよ」
「そりゃどうも」
「とりあえずでいいから来てくれないかな」
こっちこっちと手招きを始める学園長。俺はここで逃げたら後々ダルそうなのでため息をつきそっちに向かって歩き始めた。
連れてこられたところは学園の体育館。立ち寄ったことはなく、意外とくるのは初めてだった。
「何があるんですか?」
「それは見てからのお楽しみだよ」
そう言ってギギギとドアを開ける。
体育館には既に灯りがついていた。そしてそこには何人かの人が立っている。
「よぉ、来たか」
目の前に立っている人物はどれも見たことのある顔ぶれ・・・そう、そこにいたのは
──伊吹、御神槌、樹、美月、命、リアだった。
「どういう・・・ことだ・・・」
「これは僕が誘ったんだよ。みんな一言返事でOKしてくれたんだ」
「サバイバルと聞いちゃ燃えてくるぜ」
御神槌は嬉しそうにそう言い
「久しいな・・・境川。貴様を殺すためには邪魔者は全て斬る」
魔王の逸材者である織田樹・・・
「やめとけって、今は仲間なんだろ?」
それを止める狙撃の逸材者、伊吹龍
「へへ、学園のために頑張るわ!」
やる気を出している命に
「学生の身分ではないけど私もやろうかしらね。もしかしたら危険な人物もいるかもしれないし」
師匠の神無木美月
「兄様~もちろん兄様も参加するでしょ?」
ガバッと俺に抱きついてくるリア。
この顔ぶれは想定外だな。
「どうだい境川くん。これほどの仲間がいるんだ。君も参加しないかな?」
「・・・・正直驚きましたよ。身内だけでなく遠くの者や他校の人物を引き寄せるとは」
「それもこれも君の存在が大きいよ」
・・・学園長には敵わないのかもしれないな。
それでも俺は
「参加したくないですかね」
「──逃げ切る気か境川!!」
樹は叫ぶ。
「だったら学園長、ここで賭けをしましょう」
「賭け・・・??」
これは馬鹿な賭けだ。ここにいるのは全員逸材者。ハッキリいえば最高のメンバーだろう。だけど俺は目立ちたくない。だから俺は・・・
「ここにいる全員でバトルロイヤルを行います。それでもし俺が生き残ればこの話は無しにしてください。だけどもし俺が負けるようなことがあれば参加しますよ」
ああ、なんて無謀な賭けなのだろうか。だが、俺はそれくらいのリスクを見せなければ納得しないと思ったのだ。
「へえ自信あるんだ」
「それなりには」
「ならやろ」
学園長はすんなり賭けに乗ってきた。
「おもしれ事考えるんじゃん境川」
「生・・・」
「兄様・・・」
それぞれ色んな目で俺を見てくる。
だが、ここにいる全員は今は敵。考えても無駄だ。
全員が円形になり距離を取った形で立つ。
(さあ──逸材者のバトルロイヤルを始めるかな)
この無謀な賭け、どう切り抜けるか・・・ッ




