過酷な人生の代価
「・・・・・・」
どことなく気まずかった。
俺たちはリビングに全員が集合している状態。
命、リア、美月、そして俺だ。気まずいといってもリアと美月はさっきからこちらをニヤニヤと見てくる。異様に腹が立つ。
「何か言いたいことがあるのなら言ったらどうだ?」
「あら、何もないわよ」
「そーそー私たちは何もないですよ兄様」
二人は明らかに何か様子が変わっていた。
何というか冷やかしているというのか俺を煽っているように見える。
そして命の方をみると。
「ッ・・・」
すぐに目が合い命は下を向いてしまう。
さっきからずっとこの調子なのだ。おかげで命の方をみることは難しい。見たらすぐに命は顔を伏せてしまう。
理由は明らかだ。さっきのキスだろう。これまで俺と命は幾度なく普通の生活をしてきた。付き合っているからといってあまりイチャイチャすることもなく俺は色々と忙しかったがために命と接する時間もなかった。
それを覆すかのようなさっきの状況。原因は間違いなくそれだろう。
(命が美月に対する誤解は解けた・・・だが、問題は増える一方だな)
どうするべきか。声をかけるのか迷っていると時間はどんどん過ぎていく。
「ちょっと風にあたってくるわ」
俺はどうすることもできずに席を立ち外に向かった。
「あーあー、生行っちゃったわね」
生が外に出ると同時に美月はそう言い出す。
「もー東雲ももっと積極的になるべきです。兄様は鈍感なんですから」
「えっ、な、何を言ってるの・・・!?」
「誤魔化しても無駄よ」
「兄様は目を瞑るようにっていましたが、耳は何も言いませんでしたからね。声とかはバッチリ聞こえてたですよ」
リアはニヤニヤと笑いそう言った。
「う、嘘・・・」
命の顔は赤くなり目がキョドっていた。
「まあ、生が貴方を愛しているというのは分かったわね・・・・ようやくか」
美月はどこか嬉しそうな顔をした。
「あの・・・神無木さんて生の師匠だったんですよね?」
「そうよ」
「その、言いづらいんですけど。昔の生・・・中学時代の生ってどんな感じだったんですか?」
命の知らない生。それは美月にしか知らないことだ。
前に話してくれたのだろうけど、本人以外から聞けるのはレアなことだ。
「そうね・・・今のあの子は人と人の繋がりを大事にしているわ。でも、過去の生はそれとは真反対で人の関係なんていらないと言う子だったわね」
「それは・・・・聞いたことがありますね」
「今だってそうよ。あの子は貴方を大事に思っている。特別って言い方かしらね。生が誰かを好きになること自体想定していなかったことだし。驚いているし嬉しいとも思っている」
生のことを離す美月は過去を見ているかのように今の生と比べて話していた。
過去の生は比べ物にならないほど、今とは違った性格。それを変えた星川さんや神無木さんはすごいんだなと命は思った。
「彼が変わったのは確かに星川の死が原因ね。でも心の奥底では幼馴染である貴方の姿があったはずよ。だから今の生は貴方を大事に思っている」
「兄様って結構ハードな人生だったんですね」
「そうよ。生は誰よりも過酷な人生を歩んできた。その代価としてあの無類の強さがあるの」
「・・・なるほど」
リアは納得していた。
「生は私を大事に・・・か・・・フフ」
「あらようやく笑顔になったわね」
「あっ・・・いや、今のは・・・」
「照れなくても言いわよ」
「そうです!東雲と兄様はもっとくっつくべきなんです」
リアはグイグイと迫り命にそう言った。
「まっ、とにかくよ。生が貴方を大切に思うように貴方もまた・・・生をよろしく頼むわよ」
「もちろんです」
命は元気な声でそう言った。




