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逸材の生命  作者: 郁祈
第一章 学園編
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逸材の「エピローグ」

 俺と命が付き合い始めてから数週間が過ぎた。

 あれ以来、特に変わったことは起きることがなく、以前手下たちを使って俺や(みこと)を苦しめてきた有田院もおとなしく何もしてこなかった。


 少しずつだが、平和になっている。いや本来これが正常なのだろう。

 ここ最近で色々ありすぎただけなのだ。だが、それがあったからこそ今がある。それは間違いない。


 「こーら(しょう)!起きなさい」


 付き合い始めてからか命は早起きの俺よりも早く起きて俺を起こしに来るようになった。

 小柄な体型、長い髪をひとつに結んだポニーテール。そんな命が可愛くてしょうがないのでこればかりは怒る気にもならない。


 「っても・・・・早いんだよ」


 時計を確認すると朝の5時・・・・全然余裕で寝てられるよ。

 しかもカレンダーを確認すると今日は土曜日・・・・休みの日、にも関わらず命は起こしに来た。


 「今日は土曜日だぞ」


 「知ってるわよ!!今日は」


 命が言いかけ俺は思い出した。今日は6月の24日の土曜・・・カレンダーに印がついていると思えば、


 「デートだったな」


 「そ、そうよ・・・だから起きなさい!寝坊は許さないんだからね」


 そういい命は強引に俺をベッドから引きずり下ろした。


 この週が明ければ俺たちはテスト期間となる。勿論テストで赤点をとった場合、小テスト同様に退学となるのだが俺と命は息抜きがてらデートしようということになっていた。

 本来だったら棗の勉強を見てあげたい気持ちもあるのだが、当の本人が


 「こっちは大丈夫だから命ちゃんと遊んできなよ」


 と言っていたので、俺は命の提案したデートに行くことになった。




 色々したくをし、俺と命は家から出発した。

 

 「行く場所は決めてるのか?」

 

 ふと思ったことを命に聞いてみる。


 「色々迷ったんだけど、一応月曜からテストじゃない。だからあまり遠いところには行かずに近くのショッピングモールに行こうかなと思って」


 確かにあそこなら何でも揃っているからな。デートには最適なところだな。


 「なるほど、お前も結構考えているんだな」


 素直に感心する。

 

 「テストが終わったら近場じゃなくてもっと遠くに行こうね!」


 まあ俺はテストなんて心配する必要は無いんだけど命からすればこういうのは気持ちの問題らしいから、そこらへんは任せようと決めている。



 この街のショッピングモールは朝6時からやっている。ご苦労な場所だが、客から見ればありがたい所だった。

 朝一ってこともあり、人もそこそこしかいないがやはりこの街のデカイところなのでそれなりには人が居た。

 



 俺と命は洋服をみたり、ゲームセンターで遊んだり食事をしたりと色々この場所を満喫していた。

 洋服は買いはしなかったが、女子は見るのが好きということもあり、その場所はとても長時間いる羽目になった。

 でも結果的に命の色々な服装を見れたのでプラスマイナスで言えばプラスだった。

 高校に入ってからは制服姿しか見ていなかったのでなんか得した気分だ。

 もちろん制服姿の命もとても可愛いのだが、私服姿はまた別物だった。夏も近いし、いずれは浴衣姿の命も見てみたい気もする。



 色々回ったせいか足が疲れたので、休憩がてらに店内のカフェで一息つくことにした。

 時刻は2時、もうこの時間ともなれば中に人がたくさんいる。休みの日もあり中学生や子供の数がひと際多い。


 「ん~疲れたね。でも楽しいからいい」


 命は満足そうだ。


 「この場所も結構行き尽くしたな。その割にはあまり買うものはなかったけど」


 荷物は特にこれといってなかった。服もみても買いはしなかったし、ゲームセンターに言っても景品はとらず。


 「何もしなくても生と一緒にいるだけで結構満足してるのよ」


 と命は自信満々に言った。言ってて恥ずかしくないのかな。

 そう思ったが命は俺に告白をして以来、少しネジが飛んだのか俺に対して恥ずかしいことを言うようになった。

 顔を赤くすることはよくあるのだが、以前よりかは変化を伴ったと見れる。


 俺もこんな形で変わっていけるのだろうか。高校を卒業すればいずれは就職をする・・・。社会にでて、お金を稼ぎいつかは命と結婚をするのかと思うと将来について少し考えてしまう。

 俺は逸材の力がある。それは国からすれば相当必要にされることでもあり、名誉なことでもある。

 だがそれは有田のような純粋な逸材者のことであり、俺のような半端者の逸材者はどうなるのか。


 「生、難しい顔してる。考え事?」


 「ん・・・ああ。将来についてな」


 「しょ、将来!!いくらなんでも気が早すぎよ」


 顔を赤らめ命がそう言った。多分命想像している将来のこととは違うことを考えていたのだが・・・・


 「──ねえ生」


 「ん?」

 

 命が思い出したかのように聞いてきた。


 「将来・・・とはちょっと違うんだけどね。私に気になるの。中学時代の生は何をしていたのかが」


 命が聞いてきたのは将来でなく、過去のこと・・・それは俺が無の部屋に入れられている期間のことだ。

 表向きは中学時代と称されるが、履歴には中学卒業のデータはなく、空白の時間となっている。

 

 「話したい気もある・・・だけど」


 果たして話していいものなのか。これを聞いて命は逸材者に対しての印象が大きく変わるのは間違いないだろう。

 更には恋桜学園との結びつきにも気がついてしまう。後者は後々ばれるとしてでも前者はもう少し留めておくのがベストのはず。


 「生が無理ならいいのよ」

 

 命はどことなく優しかった。俺はどんな表情をしていたのか分かりはしなかったが、きっといい顔はしていなかったんだろう。

 

 



 『──おめでとう、キミは選ばれた』



 『──お前はいいよな。逸材の力に目覚めて』



 『キミはこの部屋の最高傑作、それを忘れるな』



 『境・・・川・・・くん・・・貴方は生きて・・・・・』




 

 頭の中で過去のことが過る・・・・。

 決してあの時期が楽しかったなんてない。思い出すのは全て悲しい記憶。

 でも最後には俺の誓いを固く結びつける人がいたのは確かだ。

 俺がこうして生きているのは"彼奴"がいたからだ。


 「悪いな・・・話せなくて」


 あれほど楽しかった空気も少し暗い雰囲気になってしまった。

 

 「逆に命は中学時代どうしてたんだ?」

 

 ふとこの場の空気を変えようと、別の話題を聞いてみる。


 「え。私の中学時代・・・?んーー」


 聞くと命の中学時代は今とあまり変わりなく過ごしていたらしい。俺がいないだけであったが友達はそれなりにいたらしい。

 成績もよく、先生からはよく褒められてたと。

 だが、命は恋桜学園に進路を決めたとき、先生にはとても怒られたらしい。お前ならもっと上を目指せるはずだ。そう言われた。

 でも命は押し切って進路を決めた。その次の日からだった。彼女を取り巻く環境は一変した。仲のよかった友達も命を蔑(さげす」むようになり、机にラクガキといったいじめの類・・・それらが頻繁に起きるようになった。

 命はそれを気にせず過ごしてきた。だが、いじめは悪化しついに命は中学校に行くことをやめた。


 いじめの理由は命が気に食わなかった教師を始め、それに賛同した命の友達たちの首謀。

 だけどそんな中にも命の友達でいてくれる・・・今で言うと棗みたいな存在の人がいたという。

 名前は「伊勢原(いせはら) 花音(かのん)」というらしい。

 伊勢原は学校を休んだ命に毎日のようにプリントを届けていたらしい。

 命の心はいつしか安らいでいき、伊勢原に心を再び開くようになった。

 

 だが、それは最悪の出来事を招いてしまった。

 伊勢原が休んでいる命と通じていることを周りに知られてしまい、いじめの対象は命から伊勢原に移ってしまった。

 典型的なパターンではあったが、命はそのことをしり、再び恐怖の感情に支配されてしまった。


 恐怖に支配されたみことはいつしか自殺を決意していた。

 

 「私が居なくなれば・・・・そうすれば」


 だが、支配している感情は恐怖、それは自殺をしたくても怖くてできやしない。

 幾度も試みるが、失敗に終わる。

 

 いじめにあってしまった伊勢原は敢え無く転校したらしい。中学3年の時期に転校とはとても痛い。


 



 

 「──って感じで色々あったわけだけど、恋桜学園に入ってからは同じ中学の人はいないみたいだから安心したの」


 「・・・・卒業と同時に俺はこの街に帰ってきた。だけどお前はそんな暗い感じじゃなかったと思う」


 俺が無の部屋を卒業し、この街にきたとき命は今と変わらない性格をしていた。

 今の話を聞く限りだと命は相当病んでいてもおかしくはなかった。


 「・・・その頃はもう卒業だから色々吹っ切れていたの」


 




 「あれ?命じゃん」


 後ろから突然声がした。


 「えっ・・・・」


 命の顔が一瞬で青ざめる。誰だと気になり振り返ると、そこには知らない女子が三人居た。

 休みの日なのに制服を着込んできるあたり、進学校の生徒か。


 「なにあたしらを見て怖がってんだよ。しっかし久しぶりだねえ。こりゃ久々にストレス発散かな」


 そのセリフを聞いて一瞬で理解が出来た。


 ──この女たち・・・・昔命をいじめていた生徒だ。


 「しょ、生・・・・・・」


 命は前を見ることが出来ず、恐怖していた。吹っ切れたとは言っていたが、やはり過去にあったことはトラウマとして再び蘇る。


 俺は席を立ち、


 「なんのようだ?」


 女子生徒に話しかけた。


 「んだお前?命の男かァ!」

 

 一人の女子生徒がいかつそうに声をあげる。


 「よく見るとカッケーじゃん。そんな冴えないチビより、あたしたちと遊ばない?」

 

 隣に居た女子は俺にそう言ってきた。

 

 「お前たち、うちらの遊び道具は後ろの女だよ」


 俺を通りすぎ、命の前に立っていた。


 「・・・・」


 命は震えて顔も上げやしない。この三人相当トラウマをやりやがったな。


 ここで一発殴ってやりたいが、もしそれで今後の生活に支障が出てしまったらマズイ。

 俺は拳を抑え、少し様子を見た。


 「おい、無視すんなよ」

 

 命の胸ぐらを掴みそういう。女子ってこんなに切れやすい正確だったのかよ。


 「ごめんな・・・さ・・・い」


 命は反論することができず、もはや過去の状態になってしまっていた。


 「うっぜーーな!!」


 女子生徒は命に対して拳を上げた。



 ──ドゴン・・・・


 「った・・・」


 しかし殴られたのは命でなく女子生徒だった。


 「えっ・・・・」


 近くにいた女子二人も命も・・・店内にいた客も全員が静まり返った。



 俺は我慢の限界だった。愛する人をここまでけなされたんだ。


 「──人は我慢しすぎるとな、ついやっちまうんだ」


 ・・・これはもう後戻りは出来ない。

 だかが、一般人相手、しかも女だがもう容赦はしない。


 「失せろ・・・!」


 だが、これ以上問題を起こすと警察を呼ばれかねないから俺は振り絞った冷静の感情でギリギリ抑え込んだ。

 女子生徒は唖然として、その場を動かなかった。

 





 これ以上店内にいても気まずいだけだったので、俺は会計をすませ命と一緒にカフェを出た。


 命はまだ暗いテンションのままだが、さっきよりかは少し回復していた。


 「生って強いのね・・・私は殴ることもできやしない。あの時も生がいたらって思うと少しは変わってたのかな」


 「俺は強くない・・・ただお前を傷つけられるのは感心しないだけだ」


 


 ──愛する人を守る、それが俺の役目。

 命は包み隠さず過去のことを話してくれた。そして知らない一面を見た。


 「なあ、命」


 ──彼女とは対等でありたい。その心が俺を突き動かす。


 「──少し、昔話聞いてくれないか?」


 

 


 こうして俺は近くのベンチに座り、長い長い話を始めるのだった。

命と付き合い始め、どんどんと彼女のことを知っていく生

しかし知りすぎてしまうことは危険なことでもあり、彼女の過去にあったことを知ってしまった。

対等でありたいと思っている生はついに過去を語りだす。

次回は過去編に突入します。

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