第2話 アイドルにもう一度なりたい(4)
私はアイドルの夢をあきらめたとき、心の中にぽっかりと大きな穴が開いたような虚無感に陥った。所属事務所はソロ歌手は売れないという理由で女優になることを勧められたが、一度陥った虚無感を解消するには至らなかった。
「もう、ここに私の居場所はないわ……」
そう考えた私は、アイドルを目指していた所属事務所から去ることになった。
そのとき、回想にふけっている私に加世が声をかけてきた。
「和実ちゃん、和実ちゃん、どうしたの?」
「加世ちゃん、ごめんごめん。ちょっと物思いにふけってしまって」
加世からの声に、過去のことを思い起こした私はふと我に返った。アイドルをあきらめてからは、その当時のことを思い出さないようにしようと何度も考えた。しかし、どんなに忘れようとしても、私はその度にあのときのことを思い出してしまうのである。
「物思いにふけるって、和実ちゃんらしいね。和実ちゃんは、私が呼んでも全然気づかないことがあるし」
「もうっ、さゆ子ちゃんったら! 茶化さないでよ」
さゆ子は、私が回想にふけるのを茶化すように言いました。これを聞いた私は、思わず赤面しながらさゆ子に言い返した。
この様子を遠くから眺めていたジョーは、穏やかな表情で3人の様子を見守っていた。
「あの3人を見ると、あれだけ萎縮せずに意見が言える若者はあまり聞いたことがないなあ」
私たち3人はオムライスを食べながら、次はどんなことを話そうかいろいろ考えていた。
「加世ちゃん、さゆ子ちゃん、何か言いたいことがあるの?」
「会社への愚痴や不満はもう言い尽くしたし……。さゆ子ちゃんは?」
「う~ん……。特に話したい話題は見つからないわ」
そのとき、私はアイドルを目指していたという回想を再び思い出すと、2人の前で自分の思いをぶつけようと口を開いた。
「あ、あの……」
「和実ちゃん、どうしたの?」
「私、私は……」
「どうしたの? 何が言いたいの?」
私は自分の思いを加世とさゆ子に言おうとするが、あまりの緊張に声を出すことができません。この様子に、加世とさゆ子はどうしたのかと心配そうに見ていた。
すると、私は思い切って自分の思いのたけを2人にぶつけるように言い始めた。
「もう一度アイドルになりたい! どうしてもアイドルになるのをあきらめることができないの!」
私は、10年前にあきらめたはずのアイドルにもう一度なりたいという思いを2人に伝えました。私が言ったアイドルという4文字言葉に、加世とさゆ子は驚きを隠せません。