第2話 アイドルにもう一度なりたい(3)
私たち3人がテーブル席でカンカンガクガクと会社への不満を言っていると、ジョーがオムライスをテーブル席まで運んできた。すると、ジョーは3人のやりとりを興味深そうに見入っていた。
「ははは、アナウンサーといっても所詮は1人の人間。そりゃあ、放送局の中では面とは言えないからなあ」
「わっ! ジョーさん、聞いてたの?」
「ここで言ったことは、わしとあなたたち3人だけの秘密にしておこうかね。さてと、加世ちゃんの大好きなオムライス3人前を持ってきたからね」
会社の中ではどうしても大人の事情で面と言えなくても、この喫茶店で誰もいない時間帯なら言いたいことが言える雰囲気を初めて感じた。とりあえずおしゃべりは一旦やめて、ジョーお手製のオムライスを食べることにする。
このオムライスは、まるで洋食屋で見るようなふわふわ卵に覆われた上にケチャップをかけたシンプルな味付けである。そのオムライスを口に入れると、チキンライスの鶏肉と野菜のぎっしりと詰まったうまみがおいしさを引き出している。
「こんなにおいしいオムライスを食べるのは初めてだよ! 加世ちゃん、本当にありがとう!」
「私も、今まで食べたオムライスの中で一番おいしいわ!」
「2人がオムライスをおいしいと言ってくれて、私もうれしいわ」
加世は、自分が注文したオムライスが私とさゆ子にもおいしいと言ってくれたことに、思わずうれしい表情を見せた。こんなにおいしいオムライスに生野菜サラダがついて800円なら安いものである。
そのとき、私は心の中で何かを思い出した。それは、今でもあのときのことを忘れようにも忘れることができない出来事である。
「これから、新アイドルグループ『ドリームマジカルズ』のメンバーを発表する。呼ばれたらこちらにくるように」
私の心の中に現れたのは、アイドルを目指していた13歳のときの私の姿である。当時、私は所属事務所のアイドルプロジェクトの一員として歌やダンスのレッスンを同じ年代の仲間といっしょにこなしていた。しかし、ここにいる仲間は同時にライバルでもあるため、必然的に生き残りをかけた競争は激しいものがあった。それでも、私はどうしてもアイドルになりたいとの一心から必死に食らいついて行った結果、『ドリームマジカルズ』の最終候補メンバー6人の中に入った。この中から5人が『ドリームマジカルズ』としてデビューすることができるわけだが、逆に言うと1人は選考漏れということでもある。
しかし、『ドリームマジカルズ』のメンバーはすでに4人が選ばれているが、その中に私の名前はまだない。いよいよ、最後の1人が発表されようとした。
「どうか、『ドリームマジカルズ』に私が選ばれますように……」
しかし、その願いはもろくも崩れ去ってしまった。最後のメンバーに、私の名前が呼ばれることはなかった。この瞬間、私は大好きだったアイドルになるという夢をあきらめざるを得なかった。