第2話 アイドルにもう一度なりたい(1)
いよいよ今日は、『シーサイド通り5番地』の出演日である。ナレーション室に入った私は、事前に作成した原稿を読みながら取材VTRへのナレーション撮りを行った。
その取材VTRは、新コーナー『和実のぐるぐるグルメんぼう』で使われるものである。VTRに映っている自分の映像を見ながら、改めてアナウンサーとして一喜一憂している様子です。
「う~ん……。おいしそうな顔で食べているつもりだけど、この構図だとそうでもないような気が……」
ラジオと違って、テレビは自分の行動が一部始終分かってしまうので、どうしても不安を隠すことができません。しかし、やるべきことは全てやり遂げたと考えると、私はすぐに気持ちのスイッチを切り替えることにした。
「あとは、スタジオ用の原稿を見ながら一通り目を通しながら音読しないと」
アナウンス部へ戻ると、私はスタジオ用の原稿を見ては加筆修正してから改めて目を通している。そして、自分がスタジオの中にいると想定しながら、私は何度も音読を繰り返しながら行っている。
すると、隣に座っている加世が私に声をかけました。
「和実ちゃん、そろそろあの喫茶店へ行ってみないと思うけど」
「でも、まだお昼になっていないでしょ。まだ(午前)11時を過ぎたばかりだし」
「お昼になったら、お客さんがいっぱいくるから入れないって! 今の時間なら、お客さんもほとんどいないから余裕でテーブルに着くことができるわ」
加世は、自分が見つけた喫茶店にどうしても私とさゆ子を連れて行きたいと誘ってきた。喫茶店へ行く約束は今日のお昼ですが、少し早い時間なら席に余裕があるので私もいっしょについて行くことにした。
そこへ、ラジオニュースを担当していたさゆ子がアナウンス部へ戻ってきた。さゆ子は、私と加世のやり取りに割り込むように入ってきた。
「ランチにあの喫茶店へ行くんでしょ。私だけ置いてきぼりにするつもりなの?」
「さゆ子ちゃんを置いてランチを食べに行くわけないでしょ。さあ、いっしょに喫茶店へ行きましょうよ」
私たちは港南放送の局舎から外へ出ると、横断歩道を渡ってから右に曲がった。しばらく歩くと、加世はある看板を目にすると急に立ち止まった。
「和実ちゃん、さゆ子ちゃん、ここが私の知っている喫茶店『カー&ジョー』だよ」
その看板は年季が入っているので少し古めかしいが、同時にそれは味わい深いものでもある。加世がこの喫茶店へ行くのは、こうした味わい深いお店の雰囲気が大好きだからそうである。
ランチを選ぶのは加世に任せるとして、私たち3人はすぐにその喫茶店へ入ってランチを取ることにした。