第1話 3人の新人アナウンサー(3)
私がテレビスタジオに入ると、すでに同期の女性アナウンサー2人が自分たちの出番に備えてメモを小声で読んでいた。
「和実ちゃん、もうすぐ新人アナウンサーの紹介を行うからメモに目を通さないと」
「すぐ目を通すから、ちょっと待ってて」
私はスーツのポケットからメモ帳を出すと、そこに記載している自己紹介とアピールポイントを何度も目を通した。メモ帳の内容については、今日の放送に備えて繰り返し音読したから大丈夫と自分に言い聞かせた。
しかし、いざ本番が近づくときちんとしゃべることができるか一抹の不安がよぎってきた。テレビの場合には画面に自分が映るので、自己アピールが視聴者に伝わるかが生命線となるからである。
しばらくすると、ディレクターが私たち3人に伝達事項を伝えてきた。
「CM明けに、君たち新人アナウンサーの紹介を行うからな。CM入りしたら、すぐに指定したところへ座って待っておくように」
「はい、分かりました」
伝達事項を聞いた3人は、スタジオで生放送中の番組を遠目で見ながら待つことにした。すると、番組のメインキャスター2人の声が私たち3人の耳に聞こえてきた。
「以上、お出かけデリバリーでした」
「CMの後は、新人アナウンサーの紹介です」
CM入り前のBGMが聞こえると、私たちはすぐに番組セットのある場所へ向かった。私は机に向かって座ると、1分30秒のCM時間内にもう一度メモ帳に目を通した。
そのとき、メインキャスター2人はディレクターからの指示を受けているところである。
「新人アナウンサーは初めてのテレビ出演で緊張しているから、できるだけリラックスさせるように」
「彼女たちにそう伝えておきますので」
メインキャスターのほうも短いCMの間に、テレビ初出演の私たちへアドバイスしようと声をかけた。
「初めてのテレビで緊張しているかもしれないけど、失敗を恐れないで堂々と自己アピールすることだ」
「崎本さん、分かりました!」
男性メインキャスターの崎本秀一からアドバイスを受けると、私たち3人は本番での自己紹介に臨むことになった。
「時刻は(午後)5時37分を回りました。さて、今年も港南放送には3人の新人アナウンサーが入りました。それでは、1人ずつ自己紹介をお願いします」
崎本の進行に従って、私たち3人は1人ずつ順番に自己紹介をすることになった。
「今年入社いたしました、夢宮和実です。特技はおいしいものを食べることと歌を歌うことです。一日も早く信頼されるアナウンサーを目指しますので、よろしくお願いします!」
「今年入社いたしました、猿川加世です。大学時代までバレーボールの選手でしたので、それを生かして皆さんに愛されるアナウンサーを目指します、よろしくお願いします!」
「今年入社いたしました、湯沢さゆ子です。ニュース番組のキャスターにあこがれてここへ入社しました。いろんな現場を取材したのを自分の声で伝えたいと思いますので、よろしくお願いします!」
私は、目の前にいる加世とさゆ子の2人に顔を会わせた。すると、2人のほうもにっこりと笑みを浮かべながら私に軽く会釈をした。このとき、私は加世とさゆ子に対する友情が芽生えてきた。それは、単に同期生であるという以上の深い友情といえるものである。