第8話 ラジオフェスティバルでの歌声披露(5)
一方、ステージでは最後の出場者である内垣が熱唱を繰り広げていた。この日のために内垣が選曲したのは、1970年代前半に発表されたフォークソングの名曲である『哀愁の四畳半』である。
朝ワイドのパーソナリティを担当していることに加えて、中高年層の琴線に触れるフォークソングに会場から今日一番の大歓声が沸いた。
「皆さん、しがないフォークソングを歌いましたがいかがでしたか。ご清聴ありがとうございました」
内垣は朝ワイドでの名調子そのままに締めくくると、再び会場から大歓声が鳴り響いた。内垣の歌声は、私と比較すると音程が外れているところも多いのだが、メイン支持層である中高年層からすればそんなことは気にしていないようである。
そして、私を含めた出場アナウンサー5人は再びステージ上で並び立った。メイン司会の崎本が5人を見渡すと、アナウンサー対抗歌合戦の最終結果を発表した。
「アナウンサー対抗歌合戦、優勝は……」
私は、自分が優勝することを信じながら固唾をのんだ。そして、崎本の口から優勝者の名前を出した。
「内垣孝也さんです!」
優勝者の名前が発表された瞬間、内垣は満面の笑顔を見せながら優勝の喜びを見せている。一方、惜しくも優勝を逃した私は、内垣の様子を見ながら少し複雑な表情になった。
歌唱力やダンスでは群を抜いていた私であるが、ここの会場にきている人の多くを占める中高年層は内垣のほうを選択した。もちろん、私も『クルージング通り5番地』のレポーターで知名度が上がりつつあるが、実績も知名度も内垣と比べると雲泥の差である。
アナウンサー対抗歌合戦が終了して、私は再びステージの裏側へ戻った。そこには、加世とさゆ子が私を励まそうと待っていた。
「優勝は逃したけど、私たちは和実ちゃんが本当の優勝者であると今でも信じているよ」
「どんよりとした気持ちが続くと、運気も逃げてしまうぞ」
2人の言葉を聞いて、私はすぐに気持ちを切り替えることにした。優勝云々よりも、自分の歌唱力とダンスを観客の前で披露しただけでも大きな意義があると私は感じた。
「それじゃあ、明日からまた小会議室でダンスレッスンをするからね!」
「和実ちゃんみたいに、私たちもジャズダンスがうまくなるようにがんばるからよろしくね!」
私たちはアイドルデビューを目指すためにお互いに励まし合うと、3人はそれぞれ家路へ戻って行った。




