第1話 3人の新人アナウンサー(1)
「ご苦労さまでした!」
この声を聞いた瞬間、私は今日の放送がやっと終わってホッと一息をついた。すると、隣にいるメインパーソナリティが私に気遣うように声をかけた。
「夢宮さん、これが初めてのレギュラー番組だけど、ちゃんとついていけるか?」
「藤本副部長、ちょっと声が詰まってしまいまして……。これからはアナウンサーとして恥ずかしくない言葉遣いを心がけます」
「まあ、私も新人の頃は先輩からかなりきついことを言われたけどね。まずは、自分が担当する番組で場数を踏むこと。そうすることで、おのずからアナウンス能力が向上するから」
メインパーソナリティからアナウンサーとしてのアドバイスを受けると、私はアナウンサーとしてもっと精進しなければと心の中で改めて痛感した。
「これから反省会を行うので、第2小会議室へ移動してください」
調整室からディレクターからの声が聞こえたので、私たちはラジオブースからすぐに廊下へ出ることにした。今日は、ラジオのレギュラー生ワイド番組「ひるいちクルージング」にアナウンサーとして初めて出演したとあって、私は何から何まで初めての体験で戸惑いを隠せない様子だった。
私の名前は、夢宮和実。今年の春に東京の大学を卒業したばかりの23歳である。
名刺には、「株式会社港南放送 報道局アナウンス部アナウンサー」の文字が刻まれている。そう、私が就職先に選んだのは放送局のアナウンサーという職業である。
しかし、アナウンサーの採用枠は東京のキー局や大阪の準キー局であっても「若干名」という狭き門である。そのため、アナウンサー志望をする大学生は東京や大阪だけでなく、それこそ各地のローカル局を全国行脚するのが一般的である。
私も、キー局や準キー局はもちろんのこと、名古屋・福岡・札幌といった基幹局のアナウンサー試験を受けたがことごとく全滅してしまった。それからは、全国のローカル局をこれでもかと片っ端から受験したところ、偶然にも港南放送からアナウンサーとしての内定をいただくことになった。
こうしてアナウンサーとして港南放送へ入社した私だが、入社後の新人研修でその自信を打ち砕かれることになった。
発声練習の段階から、私はアナウンス部長からダメ出しを食らう有り様で、その度に何度も自問自答を繰り返していた。それでも、私はアナウンサーとして少しでも成長の跡を見せようと努力を重ねた。
そして、新人研修の一環として、いわゆる初鳴きと言われるラジオやテレビのニュース読みや、ラジオカーでのレポートをこなすうちに、アナウンサーとして自信を持てるようになった。
こうして、初めてレギュラー番組を担当するようになった私だが、メインパーソナリティである中堅アナウンサーの藤本祐美恵と比べるとまだまだ雲泥の差があることを改めて思い知ることになった。