第3話 アイドルグループの名前はユメルサ(1)
テーブル席へやってきたジョーは、私たちのアイドルグループ結成の話に興味を持っているようである。私は、ジョーに思い切ってこう質問した。
「ジョーさんは、アイドルのことが大好きなの?」
ジョーがアイドルに興味がなかったら、わざわざランチを食べている途中の私たちのところまでこないはずである。あえてテーブル席へやってきたからには、それなりの事情があるかもしれないと私は考えた。
すると、ジョーは意外な事実を私たちの前で打ち明けた。
「こう見えても、昔は人気アイドルのマネージャーをしたことがあるんだ。今から30年ぐらい前の話だけどね」
「え~っ! ジョーさんがアイドルのマネージャーだったなんて信じられないよ」
「まあ、今は一介の喫茶店のマスターであるし、信じられないと言われても無理ないなあ」
あの穏やかな風貌のジョーが、かつて人気アイドルのマネージャーだったことに私たちは信じられない様子です。そのとき、一旦カウンターに戻ったジョーが、再び私たちがいるテーブル席へやってきた。
ジョーは、自分のポケットから名刺とある女の子の写真を私たちの前に出した。その名刺を見ると、そこにはこう書かれていた。
「株式会社スクイードプロダクション 第一営業部マネージャー 川瀬城司」
そして、もう1つ気になったのは、私たち3人とほぼ同じくらいの年齢の女の子の写真である。これは、ジョーが実際にマネージャーとしてその人気アイドルを担当したということを、私たちの前で示したいからに他ならないものである。
そのとき、私は名刺に書かれているある文字に注目した。
「あっ! これは私がアイドルを目指していたときに所属していた事務所の名前だ! ジョーさんも同じ事務所でマネージャーをしていたの?」
「あなたもこの事務所に所属していたのか! ここで同じ事務所の元アイドルと出会うとは奇遇だなあ!」
くしくも、同じ所属事務所の元アイドル候補と元マネージャーがこの喫茶店で出会うとは夢にも思いませんでした。ただ、私はその当時、所属事務所のアイドルプロジェクトの一員で歌やダンスの練習に励んでいた身ですので、当然ジョーの存在など知るよしもありません。