第2話 アイドルにもう一度なりたい(5)
「和実ちゃん、自己紹介で信頼されるアナウンサーを目指しますって言ったでしょ。それなのに、いきなりアイドルになりたいって……」
「加世ちゃんの言う通りだよ。私たちは放送局のアナウンサーなんだから、それなりの自覚を持たないと。アイドルになりたいという子供じみたことを言ってどうするのよ」
私が唐突にアイドルになりたいと言ったことに、加世とさゆ子は驚きを通り越してあきれています。それでも、私はアイドルになりたいという思いを変えるつもりはありません。
「私はアナウンサーをやめるつもりなんかないし、むしろアナウンサーであることに誇りを持っているわ。でも、アイドルになりたいという気持ちも同じくらい持っているの!」
アナウンサーを続けながらアイドルを目指すという私の熱意は、加世とさゆ子の心に響くものがあった。
「和実ちゃんは、単なる思いつきでアイドルになるわけじゃないんだ。アナウンサーもアイドルも、和実ちゃんなら2つとも本気で努力すると思うわ」
「最初は、何で今頃になってアイドルと思ったわ。でも、アナウンサーとして誰よりも努力している和実ちゃんのことだし、アイドルを目指すのに年齢は関係ないわ」
加世とさゆ子は、アナウンサーでありながらアイドルを目指すという私の熱い思いを聞くと、次第にそのことに理解を示すようになった。そして、2人はアイドルになりたいという私の夢をかなえるために、ある一計を思いついた。
「和実ちゃん、どうせだったら3人でアイドルグループを結成したらどう?」
「それなら、会社のほうだって新人アナウンサーのアイドルグループということで話題にもなるし、いいアイデアだと思うよ」
加世は、私に3人組のアイドルグループを結成するというアイデアを提案した。これを聞いたさゆ子も、放送局発のアイドルグループとして話題性があると賛同した。
私は、自分とともにアイドルグループを結成するというアイデアを出してくれた加世とさゆ子の存在にうれしさを隠せません。
「私のために、いっしょにアイドルグループを結成してくれるなんて……。これほどうれしいものはないわ」
「そんなに気を遣わなくてもいいわ。だって、今日は私たち3人組のアイドルグループ結成の日だもの」
こうして、私たち3人の新人アナウンサーはアイドルグループを結成することを決めました。しかし、肝心のアイドルグループの名前はまだ決まっていない。
そのとき、カウンターからジョーが出てくると、私たちがいるテーブル席へやってきました。ジョーは、穏やかな表情で私たちを見つめると、柔らかな口調でこう言い出した。
「3人組でアイドルグループを結成するんだね。この港南市というご当地でアイドルグループというアイデア、なかなかいいと思うぞ」