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プロローグ・a

時刻は深夜0時。俺は家からすぐ近くの、巷では心霊スポットだのと騒がれている公園を訪れていた。

こんな時間にそんな場所を訪れる目的はもちろん推察できるだろう。幽霊が見たいのだ。

俺自身に霊感なんてまるでない。生まれてから一度も触れるどころか見たことすらない。

だからこそと言っていいのかはわからないが、科学ではまるで証明できない、そんな未知の領域に身を浸してみたかった。


昼間にはよく近くを通るこの公園だが、こんな時間に来るのは流石に初めてになる。

人気は全くと言っていいほど無く、時々近くを車が走り抜けていくだけだ。

深夜にはまばらにある電灯も光を落とし、暗闇の中に身を潜めている。

空には雲がかかっているようで月明かりすら全くない。

頬を撫でる生ぬるい風と揺れてざわめく木々の音がなければ、時間が止まっているのかと錯覚してしまいそうだった。

なるほど、流石は心霊スポットなどと騒がれることはある。雰囲気は一級だ。暗闇にも目が慣れてきたし、そろそろ散策を始めようか。


ちなみに散策の概要はこうだ。

まず公園内のコースに沿ってゆっくり歩き、散歩がてら周りを観察する。

次に、出ると噂の公園内の公衆トイレを見に行き、何か起きるかどうかを確かめる。

本当に近所なので、携帯くらいしか持ち物はない。懐中電灯も何もないのは少し不安だが、なんとかなるだろう。

写真なんかも撮ろうとも思ったが、心霊写真が仮に撮れてもよほどはっきりしているものでもない限りカメラの誤作動で片づけられてしまうし、信憑性にかける。

実を言うとそもそも携帯のカメラの機能が古くフラッシュが炊けないので暗闇しか映らないのだが。


本当に何か起きた場合だが、多分俺は逃げる。幽霊を見たいと思ってこんな所へは来たが、俺は実際結構肝が小さい。

家にゴキブリが出たときでも両手をすり合わせ退散を願うだけだ。

じゃあなんで来たんだよ、と疑問に思うかもしれない。その理由は、本当に全く幽霊のことを信じていないからだ。

そして、その幽霊に憧れを抱いている。死んでも尚この世に留まり続けるという、そんな不思議なものに。


いざ歩き始めてみると、やはり中々怖いものだ。

自分の足音がこだまし、後ろを付き歩かれているのではないかという不安感。

暗闇で視界が遮られ、向こうの暗がりに何かが潜んでいるのではないかという疑念さえ湧く。

何も居ないことはわかっているが、ふと視線や気配を感じた気がして振り返ってしまう。


見慣れている筈の公園だが、まるで異世界に迷い込んでしまったかのようだ。

あまりに暗いので、携帯を起動させ周りを照らす。

恐怖感は煽られるが、やはり何も見えないし草むらや木々の揺れる音以外は何も聞こえてこない。


慣れてみると深夜の散歩も中々趣がある。今の所は見ていないが、この広い公園、どこかに人が居るのではないだろうか。

そう思うと恐怖も薄れ、自然と歩くスペースが上がっていく。


気付いた時には、目的の公衆トイレの姿が視界に入っていた。

出るという噂の内容だが、なんでも個室に入って用を足していると誰も居ないはずの隣の個室からうめき声が聞こえたり、ノックをされてドアをすぐに開けても誰も居ないという、そんなありきたりのものだ。

入ってみると、中はわりと奇麗なものだった。白いタイルの汚れはそんなに目立つこともなく、

公衆トイレ特有の鼻をつくアンモニア臭もほとんどしない。

大抵こういう公園の公衆トイレというものは汚いし臭いものだが、

都心の広い公園だから管理が行き届いているのだろうか。そのおかげかむしろ外よりも安心感がある。

丁度尿意もあるし、個室で済ませてしまおうかと思う。四つある個室には全て誰も入っていないようで、一番手近な場所のドアを開け、中に入る。


ズボンを下ろし、用を足す。この状態でいきなりドアがノックされたら流石に焦るだろう。

が、特には何もなかった。念の為携帯でも弄りながらと一分ほど待機してみたが、ノックされることも呻き声が聞こえるなんていうこともなかった。期待外れと言えばそうだが、安心した。

携帯の液晶に映った時刻を確認すると午前0時30分だ。それほど時間は経っていない。

他にやることは無いので、手洗いを済ませ公衆便所を出る。


やはり幽霊なんていないのだろうか、ひとりごちたその時


「こんな所で何をしているんですか?」


いきなり声をかけられた。心底びっくりした。女性の声だ。声の方へ顔を向ける。

そこに立っていたのはやはり女性だった。夜闇に溶け込んではっきりとは見えないが、艶やかな黒髪を肩の少し上まで落としている。

あまり女性の髪型には詳しくないが、ボブヘアーといえばいいのだろう。前髪は丁度眉毛の下の辺りで一直線に切られている。顔立ちは整っていて、形の良い筋の通った鼻と二重の大きな瞳が目を引いた。


周りに男は見えないが、カップルか何かだろう。深夜に公園でカップルを見かけるという話は珍しくない。

こんな時間にうろちょろと徘徊している俺を見かけて面白半分で声を掛けたのだろうか。

俺がもし不審者だったらどうする。こんな可愛い女の子は放っておかないだろう。

もしかして、俺のことを幽霊か何かと勘違いでもしているのだろうか。そんなことを思ったが、トイレから平然と出てきた男を見てそんな勘違いはしないだろうと気付き、考えを訂正する。


返事もしないで戸惑っている俺を見て、彼女がさらに話しかけてきた。


「あは、びっくりさせちゃいました?ごめんなさい。でも気になっちゃって」


透き通った声だった。どこにも毒気がない、そのまま聞き入ってしまいそうな声だ。なんとか言葉を返す。


「君こそこんな時間にどうしたんだ?カップルか何かかな、危ないからあまり一人にならない方がいいと思うけど」


そういうと彼女は少し驚いたような表情を見せた。


「カップル?そんなもんじゃないですよ!私一人っきりです。こんな時間にどうした、っていう質問なんですが、うーんと……えーっと……」


考え込む彼女を見つめる。家族とでも喧嘩をして家を出たのだろうか、自分よりも歳は下に見える。

表情がころころと変化するその顔はとても可愛らしい。ぜひ明るい所でも拝見させて欲しいものだ。

カメラがまともに使えれば一緒に写真でも撮れたのだろうか。少々ブレた思考に没頭していたその瞬間、彼女が発した言葉によってさらに頭の中身がかき乱されることになった。



「私、俗に言う幽霊なんですっ!」

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