混沌へと進みゆく世界
第一章完。
正直ミカドちゃんが主人公だとこれ以上は話を広げれない。
「……困った事になった」
ミカドは困り果てていた。
デュッカとやらを倒した翌日から、このセントエルモの住人に崇められているのだ。
しかも、伝説の冥帝としてである。
たちが悪いのは、ミカドが伝説の冥帝であるというのが、間違いではないというところだ。
突如として冥界と地上の両地に、それ単体で強大な界力を宿している冥界門を創造し、数千万もの戦士達の魂を吸収していずこかへと消えた存在。
正直、伝説となるには十分だろう。それに、このセントエルモの人々はデュッカによる悪政に苦しめられていたのだ、伝説の冥帝にすがりたくもなるものだ。
………要は、ミカドはセントエルモの支配者に一夜にしてなってしまったわけである。
「…このままではいけない」
ミカドは危機感を抱き始めていた。
この町の人々に慕われ、町の良き支配者となることを受け入れかけている自分にである。
あくまで、ミカドの目的は自身の記憶を探るところにある、正直こんなところで油をうるわけにはいかないのだ。
だというのに、この始末。
早いところこの町を任せることができる者を探して、さっさと地上に向かいたいというのにーー。
ここで町を見捨てるという発想が出てこないあたり、ミカドもまだ完全には染まりきってはいなかったが、それも選択肢に入れ始めた時ーー。
「よう、嬢ちゃん」
「ジンノさん!?」
救世主が現れた。
「ジンノさん……なんでここに?」
「デュッカの野郎が死んで、セントエルモの町が綺麗になったって話を聞いたもんでな、ちょっと気になって調べてみたら、セントエルモを掃除してくれたのが嬢ちゃんだってわかったんでな、一言礼を言いに来たんだよ。……すまねえなあ、俺のケツ拭かせちまって。」
「それって…どういうことですか?」
「簡単な事だ、俺が前のセントエルモの支配者だったのさ、だが油断してデュッカに負けちまってな…」
「……そう、だったんですか」
「ああ。…でな、今日は嬢ちゃんと取引しにきたんだ」
「取引を?」
「ああ、もうこの町の奴らには事情を話してある、皆、納得してくれたよ」
「もしかして、この町の支配者に、また?」
「……厚かましい願いだって事はわかってる。だが、嬢ちゃんも地上に行きたいんだろう?俺も……今度こそ、逃げたくねえんだ。頼む!この通りだ!」
「頭を上げてください、ジンノさん。あなたは私の恩人ですし、私も地上に行くために、信頼できる人を探さなくちゃならないと思ってましたから、ジンノさんなら安心です」
「おお!ありがてーー「お頭ぁ!お帰んなさい!」「皆待ってたんだよ!」「また、酒飲もうぜ!」お、お前ら!?外で待っとけって……」
「だから部屋の外で待ってたじゃねえか。てかそんなことはどうでもいい!今日は宴会だあ!」
「たっく………あいつらよお……」
「泣いてるんですか?ジンノさん」
「ああ……」
こうして、セントエルモの町には十五年ぶりに真の支配者が帰ってきたのだった。
「ところで、ジンノさんって何歳なんですか?」
「三百歳、まだまだこれからよ!」
「!?」
「皆親切な人達だったな…」
セントエルモの町を出発したミカドは、冥界門へと向かっていた。
冥界門を使って地上に行けるならばよし、行けなくともなんらかの手がかりはあると思ったからだ。
二時間ほど飛んでーー。
「あそこか、かなり大きいな…」
高さは一般的な五階建てマンション、その半分ほどで横幅は高さの三分の二ほどの巨大な門がそこにはあった。
山中にあるそれは、異様な雰囲気を発している。
覚悟を決めて門の前に降り立ち、門に手をかけるミカド、するとーー。
以外にも、あっさりと、大きな音もたてず門はひとりでに開いてゆきーーーー。
開ききったその時、ミカドの姿は冥界から消えていた。
「何!?冥界門が……開く!?」
オオトリ=カグラ率いる冥界門調査隊はパニック状態に陥っていた。
なにせ、百年間開く事のなかった冥界門が、開いたのだ。
国家の一大事レベルである。
「この界力の大きさは……くそっ!どんな化け物がきやがる!?」
界力とは、いわば万能のエネルギー、破壊にも再生にも、世界の法則を容易に書き換える事のできる力である。
その界力を測る装置が、壊れかける、それほどの大きさの界力に襲われて未だ正気を保っていられるだけカグラの部隊は優秀だろう。
「!開くぞ‼︎総員、戦闘態勢‼︎」
そうカグラが声を張り上げた、次の瞬間ーー。
「な、なんだと…?」
そこに立っていたのはーーーー十二、三歳ぐらいの、華麗な衣と圧倒的な負の空気を纏った少女の姿だった。
世界は廻る。今日も、多くの人々の運命を巻き込んでーーーーーー。
カオスワールド第一章……完。
次回からは主人公が変わります。