冥帝の能力
能力説明と、初の戦闘回。
「……………」
セントエルモ蔵書局最深部。
そこにミカドはいた。
ここで突然ではあるが、ミカドの能力についての解説をしよう。
まず、ミカドの能力は本人も先ほどまで『消滅』させる能力だと思っていたが、実際には全く異なる。
彼女の能力の本質は『喰らう』という所にあり、消滅という現象は喰らうという行動に伴って発生しているだけで、実際には『ここではないどこか』に送られているだけである。
そして、彼女の能力の恐ろしい所は喰らったものの記憶や体験を獲得できる所にある。
要は能力を使って消したものの記憶を理解したり、技術を会得できるという能力である。
彼女がこの能力に気がついた理由は、転生ものでよくあるアイテムボックスのような物が出せるか試していたら、出現した空間に蔵書局にあった様々な本が飲み込まれ、結果自身の能力について知覚することができたからだ。
いや、『思い出した』と、言うべきだろう。
彼女は思い出したのだ、自身の能力についてーー転生した時にはどのような能力か知っていたという事を。
つまりそれは、彼女が転生した時に起こった何かを忘れているという事でもある。
蔵書局では自身の能力について思い出すことができた事以外になにも収穫のなかった彼女であるが、とりあえず次の目標を定めることはできた。
それはすなわち、自身が転生した時、何があったかを知るということ。
しかしそのためには……。
「まず、今の状況をどうにかしなくちゃ……」
この無数の男に囲まれている今の状況をどうにかする必要があった。
まず、ミカドがとったセントエルモ蔵書局に正面から乗り込む、という作戦は結論から言うとうまくいった。
丁度次元回廊からマキナが出現していたらしく、セントエルモの支配者である乱暴な男、デュッカはその対応に追われていたからだ。
そのため、極秘資料を見せてくれと頼んでも、最深部近くの明らかにダミーの『極秘資料部屋』に連れていかれるだけで、体を求められはしなかった。
ちなみにミカドの体型はかなり残念なので、どのみちデュッカが体を求めることはないのだが、それは今は関係ない話である。
その後、案内してくれた職員の男の目を盗んで本当の『極秘資料部屋』に忍びこもうとしたのだが、そんなことがただの子供であったミカドにできるはずもなく、あっさりと捕まってしまった。
しかし、ウロボロスはミカドにかなり強靭な身体を与えていたらしく、ミカドが苦し紛れに職員の男の鍛えられた首の後ろに手刀を振り下ろしたところ、あっさりと気絶。
その後、無事蔵書局最深部に職員達を無事じゃない状態にしながらもたどり着いたミカドはそこで自身の能力について思い出し、なんとかして地上に行く方法を探そうとしていたところ、侵入者の報告を受けたデュッカとその部下に取り囲まれてしまったのだ。
「侵入者と聞いたが……ただのガキじゃねえか!クククッ笑っちまうぜ、思わずよう。どうした?ママとはぐれたか?それとも俺に抱かれにでもきたか?ざぁーんねぇーん!俺はテメェみたいな貧相な身体のガキは嫌いなんだよ!オイ!テメェら!あのガキを好きにしても構わん、ここから追い出せ!」
「いいんですかいお頭ァ……ホントに好きにやっちゃいますぜぇ!?」
「構わん」
「フッ……俺好みの答えだ…。じゃ、オジサンといいことしよっか!」
「ヒヒ…この時を待ってたぜぇ!」
「うわ、お前ロリかよ……俺はいいや」
「………ずいぶんと好きに言ってくれるな、もう勝った気か?」
「ケッ、獲物を前に舌舐めずりするのは三流のやることってかあ!?なら今すぐにやってやんよお!!」
そうミカドを取り囲む集団のうちの一人、かなりツノの発達した牛の頭の男が言うと、ミカドに対して猛然と頭のツノによる突進攻撃をおこなってきた。
どう考えてもミカドの骨を砕かんばかりの一撃である、周囲の者は「キズモノにすんじゃねーぞ!」などと言っているが、最悪死ぬだろう。
しかし、それはミカドが『普通』であればの話であり、当然ミカドは『異常』である。
ミカドは男の突進を片手で止めると、そのまま、男の頭を握り潰した。
パァン!という音と共に男の頭が破裂する。
その光景に呆然とする男達、しかしミカドの次の行動は早かった。
近くにいた豚頭の男の近くに外見からは想像もできない速さで駆け寄ると、これまた外見からは想像もつかない力で男の心臓を引きちぎり、潰す。
冥帝となったミカドは、既に正常な人としての生死観念を捨て去っていた。
もっとも、前世でも兄弟以外はどうでもよかったのであるが。
ミカドの異常さに気がついた男達は行動を起こすが時既に遅く、十分後には百名はいた男達全員がその命を落としていた。
冥界で死ねばどこへいくんだろう……。
そんな事を呑気にも考えていたミカドだったが、その体に鉄球が叩きつけられ、たまらずその外見だけは華奢に見える体が吹き飛ぶ。
鉄球をぶつけたのはデュッカ。ミカドの隙をうかがっていた彼は、ミカドがぼんやりとしていたのをチャンスみて得意の鉄球による攻撃を仕掛けたのだ。
吹き飛んだミカドをみて、たまらず安心してしまうデュッカ。
しかし、その『安心した』という事実はデュッカのプライドをいたく傷つけた。
(この俺様が…!こんなやつにビビっただと…⁉︎くそ、もう許さねえ……右も左もわからなくなるまで凌辱し尽くしてやる…!)
そんな下卑た事を考えながら、ミカドの吹き飛んだ地点まで近づくデュッカ、しかしーー。
「その程度か?」
ミカドは既におらず、その体は空からデュッカを見下ろしていた。
「な、あ、ああ⁉︎」
驚きと恐怖のあまり、声も出ないデュッカ、そんな彼に無慈悲な宣告が叩きつけられる。
「死ぬがよい、『余』の本気で、貴様をこの世界から消しさってくれる」
「ま、待ってーー」
「待たぬ」
「……………ここは、どこだ?」
「何も無い………何も……。⁉︎なんだ⁉︎『世界』が…狭まってくる⁉︎」
「やめ、やめ、やめ…………うぎゃ、ああ、ああああああああ‼︎」
こうして、セントエルモの人々を苦しめていた男、デュッカはミカドが創り出した『世界』ごと消滅した。
「これが…私の本気…。まさか、世界を創り出す程とは……。恐ろしいな、これで本気ではあっても、全力ではないという事実が…………………………なんか……中二病みたいだな…私…」
……その後、騒ぎを聞きつけた職員達が集まってきたため、戦闘態勢に入ったミカドだったが、なぜか職員達に「救世主だ!」「伝説の冥帝様の降臨だ!」などと騒がれ、少し困った事になってしまった。
さっすがラスボス系主人公!世界を創り出すして壊すことぐらいヘッチャラだぜ!(白目)。
あとちょっとでミカド編終了します。