走行競争〈5〉
「つくづく、この連中どもは。今度は、タッカが色ボケをぶっかますとは」
この、大馬鹿どもめっ!!!
通信室に戻るアルマ。息を頬に溜め、罵声とともに、一気に吐く。
「まるで俺が、変態みたいではないか!誤解を招く、嫌、ここにいるバースと同類扱いとは、大いにがっかりと、するではないか」
「怪奇現象が、列車の減速の原因だった。か!」
「何を、あっさりと、納得しておる!バース」
「計器等の異常はなかったのだぞ。他に何が考えられる?アルマ」
――。思いつかない。
「だろ?面倒くさいから、そういうことにしとけって、訳だ!」
「バース。おまえの頭の中が羨ましい」
「どういう意味だ?ロウス」
[PM2:51]
「バースさん」
「ああ、もうすぐ、俺達の《始まり》がやってくるぞ!タクト」
車窓の風景、徐々にその、流れ緩やかになる。
線路脇に、木製の墓標連なり、なお、地面に〈戦〉の名残の品、無造作に散らばり、広がる。
隊員一同、それに向けて敬礼。
「 無理して、見るな」
顔を両手で覆うアルマの肩を抱き、バース、静かに言葉を紡ぐ。
――――母上――。
哀しみを含む、アルマの呟き。バース、瞼を一度、閉じる。
――生きている。俺は、そう、信じているさ。
[PM3:00]
【サンレッド】紅い列車、雨に打たれながら、到着する。
駅舎の壁、一面に蔦葛。雨樋より、大量の雨水、音を響かせる。
プラットホーム。一行を迎える者、一人も、無し。
乗降口、一斉に開き、そこから降りる人、ただ一人。
「傘ないんだ。屋根無しの所に降ろすと《宝》が風邪、ひいてしまうぞ」
――任務終了時刻。予定通りに到着するとは、な。
こつり、こつり。と、改札口より、靴が鳴る音。コンクリートの通路より、木霊する。
「ルーク、よ。おまえは、私の計算通りに《事》を難なく突破した。《真実》とは何か。それも、知ることを為し遂げた」
――ルーク《宝》をこちらに引き渡せ!
バース、降り注ぐ雨水を軍服に含ませ、なおかつ、眼差し、細くする。
「アンタが《宝》の引率者か?」
バースの形相、岩の如く。
ひたすら〈その者〉を見つめていた。