終わらない始まり
陽光隊と《宝》を乗せて、紅い列車は今まさに、その時を迎えていた。
「おっさん、師匠を頼むぞ!」
「青年こそ、帰りつくまで気を抜くなよ」
双方、掌を硬く握りしめてながら、笑みを湛え合う。その一方で―――。
「何度でもいってるけど、僕達と一緒にグリンリバに一度、帰る事がキネの為になるのだよ!」
「私は元々【此処】に来て働くつもりだったの!」
「だから、それはもう、しなくていい!と、言うより、これだけこんなに【他国】だって〈団体〉の間違ってたやり方に、やっと重い腰を上げてたのだよ?駄々こねても、【此処】には居られない……」
タクトはキネを説得していた。
時を少し遡らせると、その経緯はこうだった―――。
――〈団体〉の求人募集を見て、応募したの。集まったのは、女の人ばかり。私と同じ位の子からお母さんしてる人までと、幅広い年齢層のその人達に交じって【此処】に連れていかれる途中に――そして〈創られた時〉に私だけが飛ばされた……。
「キネ、キミは僕達と同じ〈時〉を過ごしていたのだね?不愉快だろうが、キミは、家出同然でその道を選んだ……。そして、その気持ちはまだ、あると、言うことなのかな?」
「それに近い事は、前にあの、バンドて人にも見透かされた気がする……」
タクトよりため息が吹かれる。その様子をキネは苦虫を噛むようにして、見つめていた。
「僕は、バンドさんが正しいと思う。誰にも支えて貰えないと、思い込む前に、助けて欲しいと願う事は……けして、恥ずかしいものじゃない。キネ、今からでもいいから、それをやってみようよ!」
「私は……そんな自信はないわ」
「だったら、こう、言ってみる。カナコは、どうしてキミの傍にいてくれたのかな?」
キネはぴくりと、身体を硬直させると、タクトと顔を正面とさせていく。
「カナコは新しい時を刻む為に笑って、ある処を目指して行った。僕達とまた、会いたいと願ってね……。キネはカナコを守っていたつもりだけど、実際はあべこべだったと、思う!」
キネは無言のまま、タクトを凝視していると
「タクト、あれこれそいつに言っても、おまえが損をするだけだ」と、バンドが列車に荷物を運び入れ
ながら、そう、言った。
「バンドさん……そんな、素っ気ない言い方は、あんまりですよ」
「復路もこの列車での移動だ。おまえも、食糧、備品等を積み込むのを加勢しろ!」
「了解」と、タクトは返事をすると、一度キネと目を合わせて、乗降口の側に置かれている箱を持ち上げると………列車に乗車していった。
――全員、乗車しているな?
通信室に陽光隊は集い、バースの言葉に静かに頷いていく。
バースもまた、頷き、一人ずつ目を合わせていく。
「我々の任務は、まだ、終わっていない。子供達を親元に帰すまでは、と、心掛けてくれ。そして、それから先も……始まりはある」
バースさん、僕、忘れ物をしてしまったから………。
もう、出発するのだ。諦めろ!
乗せないと、大変なモノなのです。
「……一分以内で、積み込め!俺も、加勢する程の重いブツだろうから、さっさと行くぞ」
「ありがとうございます!」と、タクトは敬礼をして、通信室を飛び出していく。
――キネーッ、列車に乗るよ!
「タクト、俺、ちょっと調子に乗っていいか?」
ニヤリと歯を見せるバースに困惑しつつ、タクトは「是非、お願いします」と、返答する。
バースは息を吸い込み、頬に溜め込みそして―――。
――キネ――ッ、おまえの胸は、アルマより小さいが、夢や希望でいくらでも膨らむぞーっ!!!
「……ぉおおお………と。ホレ、速攻で―――」
この、ドスケべ野郎め――――っ!!!!!
キネとアルマ、ほぼ同時にバースに向けて、拳と蹴りが入り込む。………その光景に、タクトはひたすら冷たい視線を剥けていた。
「はい、お大事に!」
走り出す列車の救護室で、タクトに手当てを受けるバースは、ふらりと、椅子より腰を上げてながら、こう、言った。
「あいつは、子供達の数の10倍分の性格だよな?」
「求め方を知らないだけですよ。それを教えるのは、今のうちです」
タクトは救急箱を棚に置き、ため息をする。
「……時間を掛けちまうぞ?」
「グリンリバに到着するまでは、大丈夫です」
「バンドに押しつけとく」
「却下です」
「帰りくらいは旅気分に浸りたい」
「だから、なおさらですよ」
個室で休む。タクト、俺の代わりをしろ!
まだ、話しは終わってません!
タクトに呼び止められ、バースは渋渋と、ベッドに横になっていく。その同時に、救護室の扉が開くと―――。
「お、噂の本人の登場だ!」
「こそこそと、言われるのもしゃくだから、お邪魔をさせて貰うわ」
つん、と、キネは首を横に振り、側に置かれている椅子に腰を下ろしていく。
「バースさん、あなたも始まりが待っているのですよね?」
「ああ、今よりもっと、大掛かりなやつがな」
「僕もです」
「……それで、あばよ!なんて事はする必要はない、さ」
「でも、特にバースさんは、絶対に忙しくなります」
タクトのその言葉にバースは、険相を剥き出していく。
「……おまえも、知っているのだな?」
「階級があがると……聞いてます」
「祝儀代わりだ。なんて、どえらいオマケだよ」
「燻ってますね?」
「俺の性分はタクト、おまえが一番理解している筈だ」
「勿論ですけど、僕ではどうする事も出来ません」
なんだか、こんがらがった話が飛び交ってるみたいだから、私………。
待つのだ、俺達は自分だけの実力で、今までをやってのけていたのではない!
キネは扉を開きかけて、その場で立ち止まる。
「誰かに、助けられ、声を掛けられ、それを吸収して、人は生きていくものだ。俺だって、そうだった。キネ、タクトはおまえにそれを、やって欲しいと言ってるのは、判っている筈だ」
「……考えさせて」
キネはか細く言うと、救護室を去っていった。
「どれ、タクト……到着するまで、子供達を頼むぞ」
「了解!」
キンキンと、レールと車輪が擦れる音が、響き渡る。
車内では、タクトを囲み、無邪気な顔をさせる子供達が歓喜をする。
その様子に、穏やかな眼差しを向ける、アルマとエルマ。
――其々の胸に、これまでの思い出を刻ませて……紅い列車は、グリンリバに到着する。




