蓋は開かれる〈4〉
“光”は《闇》を振り払う。それと同時に蒼い閃光が迸り、それは、繋ぎ合う。
「よしっ、今のうちに、突入するぞ!」
バースは叫び、一同は神殿の入口へと一気に駆け出していく。その扉を潜り抜ける寸前、目の前がぱっと、眩く輝き、それと共に消えていく。
一同は足元に着地する感触を覚えると、一斉に目の前の光景を凝視する。
「みんな、よかったね!そして、ありがとう」
タクトは、動く人や動物を象る物体と、対峙していた。
「アルマッ、直ちに援護するぞ!」
バース“橙の光”を輝かせ、まっすぐとタクトの側に駿足する。そして、息をつく暇もなく“光”を剣に象らせ、身体を右旋回にさせ、物体を叩き割っていく。
砕かれた物体の破片が空間に浮かび上がり、一度静止して、そして―――。
「なんなのよー!あっちいってーっ」
「身を低くしろっ!」
アルマの掌より、大輪の花を彷彿させる“光”が旋回しながら解き放され、それは、瞬時に消滅する。
「はあ……」
「キネは、カナコと子供達の側でじっとしとくのだ!」
「それは、無理よ。だって――」
キネが指差す方向で、子供達が押し寄せる物体に立ち向かう光景に、アルマは驚愕すると、瞬時に其処へと飛び出していく。
「おまえ達は、何を無茶なことをしてるのだ!」
「平気だもん!こんなの、げんこつでこうすれば――」
サスケの拳で砕ける物体を、アルマは呆然となる。
……怪我に気をつけるのだ……。
うん、アルマお姉ちゃんも、頑張ってね!
わーっ!と、子供達は一斉に、足蹴りや体当たりをして、物体を蹴散らせていく。その度、それは、霧となり、空間に溶けるように消えていった。
タクトは“蒼の光”を輝かせ飛翔し、天井に靴底を着けると、弾丸の如く、人の形をする物体に直進して脚を振り上げて砕いていく。
「タクトさん、危ないっ!」と、背後よりコータが握りしめる金属製の棒で、前足を振り上げる物体を叩き潰す。
「コータ……あの、ちょこまかとしてる小さい土人形を、その素早さで潰していって貰えるかな?」
タクトが促すと
「レノンとカイ、そして ポールにけしかけさせて、僕とベクトルは、タクトさんの援護でいいですか?」と、コータは言う。
「……判った、頼むよ」
タクトは笑みを湛えると、双方と共に、空間に漂う《闇》へと“光”を解き放し、消滅させる。
「メイ、おまえ達女子は―――」と、アルマはカナコの側に行くようにと、指示をする。
メイは頷き、女子の名を次々と呼び、カナコを囲み、手を取り合い、其々の“光”を輝かせると、壁と象らせ、攻める物体を粉砕させていく。
「あなた達……無理をされないで」と、カナコは言うと
「これくらいは、何ともないわ!あなたがどんな人かと、その着てる服を見たら、何となく判るから」
メイの言葉に、身に纏う袈裟にカナコは指先を押し込めていく。
「形だけです。私は、あなた達のように、立ち向かう勇気は……」
「自分を変えたいのなら、目の前の困難と闘うしかないだろうっ!」そう、言ったのはキキョウだった。
カナコの瞳がぱっと、輝きを含ませていく。
「私と同じくらいの皆さんは……沢山の事を、あの方々より学ばれていたのですね?」
「特に、タクトさんが、いっぱい私達に教えてくれたわ」と、ユキミが笑みを湛えながら言う。
「あなた達と私の“光”を繋げて合わせていいかしら?」
カナコは“黄金色の光”を壁に注ぎ込む。
輝きは更に眩しさを含ませ、空間に“光”は迸る。そして粒となり、粉雪の如く……さらさらと、きらきらと、降り積もる。
〈粉〉を浴びる物体は……音を響かせ、崩れて……空間に溶けていく。
「やったな……カナコ」
バースが満面の笑みを湛え、カナコに拳を差し出しながら、振り向いていく。
わっ、と、子供達はぐるりとタクトを囲み、笑みを溢しながら、其々の掌を伸ばして乗せる。
「みんな、凄いよ。こんなに……“力”を出したら、お腹が空いてしまったのでは?」
――お兄ちゃんが一緒だったから、へっちゃらだよ!
――ぼく、これくらいのちっちゃいもの、踏みつけたよ!
――私は、投げて壊した!
「判った!怪我した子はいないね?」
タクトがそう、言うと、子供達は一斉に返事と共に頷いていく。
「皆さんの勇敢な行動に、私も勇気を貰いました。これより先は……私が―――」
「おっと、だからといって、俺達がおまえに押っつけるなんて、するか!」
バースのその言葉と共に、誰もが頷いていった。
「全員で、陽の花を咲かせるのは、どんな事かと〈あいつ〉に示すのだ……」
アルマはカナコと手を取り合い、眼差しを柔らかにさせて言う。
母に……届きますか?
おまえには、今〈仲間〉がいる。それは“力”を増幅させる、源……。
「はい……」と、カナコは涙を頬に雫とさせ、滴らせる。
一同の足元に、黒色の霧がゆらりと、漂い、空間へと撒き散らせていく。
「あんたの〈負の思考〉は誰一人も幸せなんて、しない。はっきり言えば、はた迷惑だ!」
バースは霧に視線を辿らせていき、その先を凝視しながら、そう、いい放つ。
《闇》は必要だ……。その身に刻ませる事により、欲望は深まり、野心は高ぶる。この身体になって、様々な歴史を覗くことが出来た。皆は、それらを貫かせ、達成させていった……。
「その一方で、生き方をねじ曲げられて、追い詰められ、嘆き、絶望を強いられる者も、後はたたなかった!」
……おぬしの中に、ある魂が重なっている……。何処かでと……頭を捻らせていた!
「《主》て、奴に無理矢理刷り込まされた……。何度も追い出すけど、引っ付いて離れないのだよ!」
―――《主》が?すると、其奴は、私に……。
「俺に訊かれても、知るか!〈本人〉に〈あの時〉の真実を確かめろ」
――おまえ達、俺に集まってこい!
タクトはアルマと目を合わせると、頷き《宝》とカナコを手招きする。
――何をするつもりだ!
――あんたの中に直接、こいつらと一緒に入り込んでやる!そして―――。
―――〈生きる〉と、いうのを思い直せ―――!!!
母……さま………。私の手を……触れて――。
―――そなたは―――?カ……ナコ?……私の―――。
――娘………。
神殿の祭壇、舞い上がる風圧に、陳列される道具を攪拌させ、床に叩き落とし、埃を撒き散らす。
「やっぱり、私は足手纏い……か」
一人残る、キネ。つん、と、耳を裂く静寂に澄ましていった。




