鳥は繕う
〈時〉の道標と姿を変えた《宝》をとりあえず、俺達は回収して[影の塚]を出た。元に戻す……それまではいいが、方法が見つからない。
カナコは言う。
「《宝》にかけられた以上の“力”を持つ方がいいでしょう」
俺達はこぞって、それに“力”を注ぎ入れた。だが、反応はなく、誰もが落胆した。
「これ以上やっても、体力が消耗するだけだ。ひとまず、気を落ち着かせよう」
人の気配がない集落の家屋に、一行は入り《宝》を元の姿に戻す為に奮闘して、疲労困憊状態に陥っていた。
「タクトでも駄目となると、後は――」
「私は、残念ながら其処までの“力”はありません」
カナコに即答され、バースから困惑な面持ちが浮かびあがる。
「でも、まるで鳥の卵みたいな形してるね?」
「おい!むやみに触るな」
「ケチ臭いこと言わないでよ。私は、率直に述べただけなのだから!」
バンドと押し問答するキネに、タクトはふと、思考を張り巡らす。
「キネ、その例え、ひょっとしたら、いいかもしれない!」
一同、タクトに振り向き、怪訝な眼差しをする。
「タクト、まさか《宝》を鳥に暖めさせて……なんて――」
タイマンの言葉を遮るかのように、タクトは続けて言う。
「勘ですよ!【此処】の生き物は、僕達より摩訶不思議な“力”を持っているのです。そう、考えても可笑しくはないと、僕は思います」
「タクトさん、あなたは不思議な方ですね?」
カナコは瞼を大きく開き、タクトを見つめる。
「え?だって、この家誰もいないから、入っていいと、教えてくれたのは、さっきまで一緒にいた白い鳥さんでしたよ」
一同、一斉に顔面蒼白となり、タクトを見つめる。
――満更、出鱈目でもなさそうだぞ?
――待て、かなり逸脱してる!
―― 俺達が混乱して、どうする!
――いや、ただ、これだけは否定は出来ない……。
「みんな、何、こそこそと、話されてるのですか?」
タクトの呼び掛けに、一同、瞬時にひくりと、身体を硬直にさせる。
「……満場一致で、タクトの提案を受け入れる」
バースと共に正座をする全員が頷く。
――あー、キミだよ!お願いしてほしい事があるけど、いい?
澄みきる空を優雅に羽ばたく鳥に、タクトは手を振りながら呼ぶと、それは、ひとつ旋回して、舞い降りてくる。
――タクト、どれだけ“力”を持っているのか?
――俺に訊くな……。
――まだ、序の口の筈だ。
――嫌だワ!タクトくんが、変なモノに変化してしまう なんて。
――ザンル……。おまえが言うと、妙な違和感を覚えるから、止してくれ。
「また、こそこそと、されてる!」
タクトは、怒りを膨らませて、一同に言う。
「……いや、その鳥さまは、引き受けてくれたのかな?」
「バースさん、何を、言葉を棒読みされてるのですか?」
だから、鳥さまの反応を……。
喜んで、承知してくれました。
満面の笑みを湛えるタクトに、バースも安堵を混ぜる息を吐く。
「《宝》が〈孵化〉するまで、時間はそんなにかからないと、いうことです。でも……」
見張りが要るのでしょ?私と『前髪ざんバらンド』で、やるわよ!
「……バンドだ……」
「あら?だったら『バン=ドサン=パツシナ』と、呼ぶことにする!」
バンドが険相して、肩を震わせていると
「頼むぞ、キネ」と、バースは、腰をあげ、バンドを横目で見つめながら、家屋の外へと駆けていく。
ひとり、また、ひとりとバースの後を追うように、飛び出していく様子を、バンドは唇を噛みしめ見つめていた。
「取り合えず、雨風凌げる場所で、良かったですよ。ね、みなさ―――」
――バンドには、うってつけの奴だな?
――天敵……だ。
――あの、モノ応じない、尚且つ、ふてぶてしさは、大したものだぞ!
くすくすと、背中を丸めて、笑いをこらえるバース達に、タクトの怒りが炸裂していった。




