陽の咲く国〈14〉
「カナコ……まさか、あなたと、こうして会えるとは思いもしなかったわ」
エルマはカナコの手を取り、声を震わせ、そう、言う。
「……でも、私の〈時〉は止まったままだった」
カナコの言葉にバースは、怪訝になる。
「エルマ……カナコは〈創られた時〉で過ごしていたのだ。おまえと同じ〈太古の時〉からやって来て、何故……だ」
簡単なことよ〈かつての時〉の想いが強すぎて〈自分の時〉を受け入れるのが〈創られた時〉だもの……。
「そこの娘は?」と、アルマは訊く。
「キネ……と、呼んで。カナコに何かあったら、大変だから、くっついてきた……」
「おまえも、別の〈時〉からの〈其処〉の移住者なのか?」
「……よく、覚えてないけど、空が見たこともない色に染まって……。気がついたら、カナコが私の側にいた……」
やはり……あの実験で、あの周囲一帯の〈時〉にまで……歪みを侵していた……か。
「おい、おっさん。それは、あんたのせいではない!」
バースは、床へと崩れるように座るシムズに、瞬時に駆け寄り、その肩に掌を乗せていく。
「私は、特に不満はないわ。何も、煩わしい事なんてないし。言い方変えれば、居心地がいいと、言うところね」
おまえ……〈かつての時〉では、誰これと衝突していたのだな?
「……不愉快だわ!」
バンドの言葉に、キネは、瞼を痙攣させる。
「あの、一度この場所を出ませんか?」
「タクト、まだ、横に………」
「大丈夫です」と、タクトはアルマの支える腕をそっと、解すと、上半身を起こしていく。
[影の塚]を一行が出ると、陽が燦々と、辺り一面を照らしていた。
「ふうっ!やっぱり陽の温かさが一番いいや」
バースは、満面の笑みを湛え、腕と背筋を大きく伸ばし、深呼吸をする。
「変な人ね?」と、キネが怪訝なると
「キミほどではないと、思うよ」と、タクトは眉間に皺を寄せ、更に顎を突き出して言う。
「いい、度胸してるね?この私に喧嘩を売るとは!」
「なら、こう、言い返す」
何があったのかは知らないけど、人をわざわざ自分から遠ざけるのは、止めた方がいいと思う!
「はあ?」
「あの、カナコと、いう女の子を守るつもりで、バースさん達にくっついて来たのなら、これから先、皆がキミに世話が焼くのはみえみえとも、付け加えとく!」
バースさーん!何、拾ってるのですか?
また、人を盗人みたいな言い方をしやがって……。
それ、勾玉じゃありませんか!嫌だなあ、何か憑いていたらどうするのですかぁ?
……ロウスが気絶するだけだ。
「嫌な奴ね……」
和気藹々とするバースとタクトを凝視しながら、キネが呟いていると、その肩に掌が乗る感触を覚える。
「タクトの言ってることは、正しい。よく見れば、おまえも、あいつと同じくらいの歳だろう?」
アルマは笑みを湛え言う。
「……大人は何かと上から目線だし、同性にだって、知らんぷりされるのよ……」
「唯一、心を開いているのは、カナコのみ……だが、いつかはおまえも、それなりの道を行かねばならなくなる」
「カナコを置いてなんて……」
「あの娘はおまえと違う〈時〉から来てる。今はこうして過ごすことは、出来るが、現実を近いうちに目にする!今のうちに、その覚悟をしとくのだ」
「……考えたくない」
「【此処】は元々〈太古の時〉が栄えてた名残なのだ〈その時〉を過ごしていた《民》を静かに眠らせてあげる……。それが〈今の時〉を生きる私達の役目だ」
アルマはそう言うと、キネより離れて、バース達の元へと追いついていく。
「まさに《陽の花》を咲かせる……。なんて、素晴らしい方でしょうね」
「カナコ……あんた、承知で【此処】に来たの?」
「帰ってきただけ……。それに、あの方達の志は、私にも伝わった。私が怖じけていたら、変えることが出来ない……」
「私にも手伝わせて……」
キネの催促に、カナコは頷く。
陽は更に高く昇り、空を蒼く澄みきらせ、大地に根付く緑を濃く色付かせていった。




