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陽の咲く国〈10〉

 ヒノカ――。かつての【国】の女王の名。そいつは、摩訶不思議な“力”で《民》の暮らしを守り《主》の声を聞き入れて、開示していた。誰もが、ヒノカに拠り所を求め、そして、支えていた。


【国】は先代の王の時代、幾度も【他国】と〈戦〉を仕掛け、その度に《民》の男は兵士と駆り出され、その大半は、生還することはなかった。


 王の崩御に伴い《民》はヒノカを王にと、挙っていく。理由は《主》の声を聞ける“力”を持つものと、いう、事で――。


 月日は流れ、ヒノカは〈繋ぎ〉を授かる。


 名はカナコと、いう娘。


  娘の父親は【国】の兵士を統括する役割をしていた。女王である妻の《主》の声を伝えるのは、その側近の……女だった。


 いつものように、女王は《主》の声を側近に開示する。内容は……〈戦〉に手を出せば、多くの兵士が犠牲になる……と――。


側近は、伝える。だが、あと一歩で勝利は掴めると、女王の夫は、それを拒む。


率いる兵士と共に、そいつは【国】の地を踏むこともなく、命を散らす。


《民》より非難を浴びせられたのは、女王であるヒノカだった。連日連夜、王宮に《民》は押し寄せ、罵声を飛ばしまくる。


―――《主》の声と偽り、虚言を我が夫に吹き込んだのは、おぬしなのか?


女は口を閉ざしたまま、ヒノカより目をそらす。


―――おぬしに否があってもなくても《主》の声がねじ曲げられ、伝わった事実は……変わらない。


女王。いえ、ヒノカ。何を言ってもその耳には入ることは、ないでしょうけど、私は……《主》の声をちゃんと、あの方に―――。



―――そなたとは、生涯、友として、通わせたかった……。残す我が娘、カナコの未来までを絶つような事があれば、わらわは ……容赦はしない―――。



ヒノカは【国】の境目にそびえる山を独りで目指し……それっきり《民》はおろか、娘、そして女の元に帰ることは……なかった――。




――バースは、息を大きく吐く。


「イヤだわ!何がどうなったら、二人の友情まで木っ端微塵になっちゃったの?」


《扉》を潜り抜けて、その路地を踏みしめる最中、ザンルは号泣しながら、そう言う。


「その女王様の旦那が、欲の皮を突っ張らせたのが、原因……。待て!俺は手拭いじゃないっ」

ザンルに軍服の袖で涙を拭われ、タッカは、その額を掌で押し退けていく。


「バース、ひとつ訊くがいいか?」と、ロウスは

、タッカとザンルの押し問答に苦笑しながら、言う。


「ああ……。あの時〈こいつ〉が アルマを見た途端に、怒りを膨らませたことだろう?」


バースは、陽の刻印が刻まれる箱を、握りしめながら、靴を鳴らし、前進していく。


「似ていただけで……アルマさんは―――」

「他人のそら似だ……」


歩みを速めるバースに、ロウスは後を追う。


「おまえは、すぐ、態度にでるな」

「ヘタレのおまえなんかに、言われる覚えはない!」

バースの返答に、ロウスはわずかに笑みを湛えると

「……その箱を、例の〈娘〉に渡す。その先はどうなるのか、判るのか?」と、訊く。


「さぁな……」

「やってみないと判らないか?」



隊長、前方より、誰かが向かってきてます!


バースは瞬時に険相して、タッカとザンルを促し、その方向に、身を構えだす。



――待つのだ……。ワシは〈時〉の《扉》が開かれるのがいつになるのかと、ずっと、見つめていた。



かつこつと、石畳の通路にその靴を鳴らし、その者は、バースに穏やかな眼差しを向ける。


バースの形相、困惑を含め、更にその者にこう言う。

「おっさん――?何で、あんたが……此処に。いや、俺がただ、間抜けに、おっさんがいる〈あの場所〉に《扉》を繋いだだけか?」


無精髭の男、首を横に振り、バースに歩みよると、その肩を掌で押し込んでいく。


「正真正銘【国】のもうひとつの〈時〉に繋がる道だ。ワシに色々と訊くことがあるのだろう?まずは〈其処〉まで引率する。ついて参れ……」


男は身体を翻し、歩み始める。


「あの男の言ってること、信用できるのか?」

そう、言ったのは、タッカだった。


「あの人工自然を創った奴だ……。俺達とまた、違う“力”を持ってても、何もおかしくはない!」



――どうした?


――何でもない。道案内を頼むぞ!



男に導かれ、一行、その出口に辿り着く。


――その前方に拡がる光景――幻想。天と地を繋げるかの如く、果てしなく現れる―――。

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