陽の咲く国〈9〉
――エーイッ!オマエラモ、アノモノタチヲ、フリハラウノジャーッ!
その者、漆黒の髪をばさりと、振り上げ、白麻の集団に罵声を浴びせる。
その掌に乗る深緑の炎、陽光隊にめがけ、ひとつ、ふたつと、ゆらりゆらり、漂う。
「緩い……。こんなもの――」
タッカさんっ、それは、ただの炎では、ありませんっ!!!
タクト“蒼い光”を解き放し、タッカを腕に挟み、空間の隅に飛翔していく。
一度、床を転がり、タッカはその腕を解して 、瞬時に姿勢をただしていく。
「この、馬鹿!わざわざ俺に抱きついてまで、援護するなっ」
「何が馬鹿ですか!あなた、危うく〈太古の時〉に引きずり込まれるところだったのですよ」
タクトは、足元にある建物の破片を拾い上げ、其処にめがけて投げ込んでいくと、輪と形を変え、それをその中心に含ませると、再び、元の形とゆらりと漂い始める。
「おい、バース。タクト、急に何だか《闇》の仕組みをやたらと、感知してるが、大丈夫なのか?」
タッカは、不安感を覚えるように、そう、言う。
「珍しく、そのような事を言うのだな?」
「真面目に言ってるのだ!」
タッカの剣幕に圧されるかのように、バースはタクトを凝視する。
「タクト。おまえ、下がってろ!」
「何故ですか?僕だって、みんなと同じように――」
ヒメカが、まだ、未熟と言った意味が判ったんだ!
バースの激昂を含ませたその、言葉に、タクトは怪訝になる。
「……結局、僕は足手纏い……。そうなんですね?バースさん」
「其処まで言ってない!」
バースは、目尻を吊り上げ叫ぶように、タクトに言う。
「アルマ、エルマ。タクトが飛び出さないように、押さえていてくれ!」
バースの促しに、双方頷き、タクトを引き寄せていく。
お二人とも、ですか!
動くのではないっ。おまえは、バースの胸の内を察する事ができないのかっ!
「タクト、よく、聞きなさい。ヒメカは……あなたのお母さんは、身も心も、削ってまで【国】いえ、全ての大地を《闇》から守ってくれた。でも、それは〈運命〉と言えるものではなかった……」
「だから、僕が母さんの意志を――」
一度《闇》に身を染めかけといて、まだ、そんなことを言うのか!
「アルマさん〈あの時〉は……」
何の為に、あなたは、お母さんと会ったの?
「それは……それは――」
おまえだって、望んでいた!ヒメカとまた、暮らしたいと。そして、おまえ自身も、こう、言った。
――〈未来〉を守る……と―――。
「タクト、あなたの“光”は本当に無垢よ。それは《闇》に使うことはしなくていい……から〈未来〉の為に、大切にして……」
エルマはそう、囁き、タクトを腕の中に押し込めていく。そして、アルマも頬を濡らしながら、双方に重なりあっていった。
「……バースさん、どうなっちゃうのですか?」
タクトは鼻を啜り、そう言う。
「私達が、道標になる。絶対に……戻ってくる」
――アルマ、いつもすまねぇな。ただ、こればかりは、やっぱり俺にしか、出来ないと、仕方なく諦めた――。
――バース……。
「今度は、こいつらも、連れて行く。宛にするぞ……おまえ達」
陽光隊、8の“光”を輝かせ、前方の深緑の炎に解き放し、消滅させる。
――〈トキ〉ガキエル……。ワラワノ〈ツナギ〉ガソコニイルト、イウノニ……!
「あんたは亡者。しかも【国】に裏切られ、自らその命を絶った。だが、残した〈そいつ〉に会いたさ一心で〈今の時〉を被せようと、したが《主》も《陽》さえも、其れを拒んだ……!」
――〈タミ〉……。ワラワニ、スガッテテ、シウチガ、ウラメシ……。
「会わせる事は出来るが、触れることは、無理だ。それを承知するなら、あんたが言う〈時〉に連れて行く!」
――オヌシハ……イッタイ――。
「今から〈太古の時〉の《扉》を俺が開けてやる!ついてこいっ!」
――【ヒノサククニ】の女王様よ!
バース、全身を“橙”に色付かせ、両腕をその者に伸ばし更に、掌を向ける。
空間に風が吹き込み、糸が紡ぎ、綿雲を象らせていく。
それは《扉》と、なり、ゆっくりと、開かれていった。




