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陽の咲く国〈8〉

《闇》もまた、陽光隊に目掛け、黒の“力”を解き放つ。


「マシュさん、伏せて!」

タクトの指示に焦るように、マシュは床にへばり付く。その頭上を掠めるバンド、“灰の光”を輝かせ《闇》を脚を振り上げ、左に旋回しながら踵でそれを払い落とす。


「ふえぇえっ!」

マシュ、その場を動かず。背中を丸めながら、頭部を掌で抱え、怯えるように言う。


マシュさん、あっち!マシュさん、其処は退いて!


マシュさん、マシュさん、マシュさん―――。


「……喉が、取れそう――」

タクト、息を切らせ、バースを横目で追う。


「マシュッ、タクトにその度指図される前に、ちっとは己で考えて動けっ!」

《闇》に“橙の光”を放ちながら、バースは罵声をマシュに浴びせる。


「話しが違うではありませんかぁあ?」

「俺の指示を真に受けてどうする!おまえは、臨機応変と、いうのを思い付かない程――」


――馬鹿だったのか―――っ!!!


バースの言葉に、マシュは瞼を痙攣させ、こめかみに青筋を浮かべていく。


「……今、凄く、頭に来ました!」

マシュ、それまでの姿勢を瞬時に正し《闇》へと目掛け駿足し、肘を曲げてそのまま其処へと押し込んでいく。そして、更に飛翔して飛び越えると、脚を平行に伸ばし、靴底でその背中に衝突をさせる。


《闇》は呻き声をさせ、黒色の煙となり、空間に溶けてるように、消滅する。


「……あら?」

マシュ、困惑の面持ちをバースに剥ける。


「感情が爆発したときにのみ“力”を発動させても、こっちとすれば、あまりいい手段ではない。おまえの弱点は〈自己暗示〉だ!良くも悪くもするのは、結果的には、そこにある!」

バース、踵を《闇》に落としながら、そう言う。


「僕、今まで自分は駄目な奴と、思い込んでいたのもいけなかった?」

「今、ぐったぐたする暇はない!やるべき事を片付けて、こもるなり、逃げるなりしろっ!」


――そんな、中途半端な言い方は嫌ですっ!


マシュは“茶の光”を輝かせ、今、まさに自身に押し迫る《闇》をなぎ倒していく。



「おまえが最後だっ!」

その罵声と共に《闇》は消えていき、空間にぱっと、温もりを含めた灯が照らされていく。


「バース……《闇》のほとんどは――」

「そんな、シケたツラするな。まだ、奥に《闇》は潜んでるのは、確かだぞ?タッカ」


ため息のタッカにバースは、苦笑いを剥ける。



――そして、陽光隊は更に駆け出し、前方に拡がる光景に息を呑み込んでいく。


「女の………人?」


顔面蒼白で列を成す、白の麻の衣を身に纏う集団。

その掌には、燃え盛る深緑の炎が乗せられ、その影を、落としていた。


「来るぞ……。だが、まだ、此方からけしかけるな!」

バース額より汗を滲ませ、声をか細くさせ、言う。


しゃらり、しゃらりと、装飾品より音を鳴らせ、それは、水面を移動するかの如く、一行に近づいて行く。


そして、ゆっくりとその歩みを止め、長い漆黒の髪をわずかになびかせ、凍りつくような眼差しを剥ける。


「……道具は……やはり“力”を失った……。あと、わずかで〈時〉がひとつになると、いうところで…… 」


「〈今の時〉にあんたが過ごした〈時〉は合わない。それに、其処に下っぱのように、従わせてるのは、何処から連れてきたのだよ!」


「【居場所】を求めて、追われた……哀れな生き人。天と地を繋ぐという意味を含めた……〈其処〉より集わされて【此処】に辿り着いた」


「何もかも〈あれ〉が元凶か……」

バース険相し、その者を凝視する。


「この者達にとっては【此処】は楽園……。それを、あえて、おぬしたちは壊しに来た。そうであろう?“橙の光”を持つ《風》よ……」


「何、寝ぼけた事をほざく!おまえの言い方を解釈すれば、こうだ―――」


〈今の時〉に希望が持てない。その、苦しみから逃れるために、全てを棄ててさせてまでも【此処】に心地よさをそいつらに、刷り込ませていった!


「……おぬしは……。そうか、おまえこそが、わらわの――」


「何だよ?俺に喧嘩を売ってたんだろ」


おまえでは……ない。その、側にいる〈おなご〉が―――。


――ジャマ……ダ……。メザワリ……ダ―――。


バース、瞬時にその者の視線を追い、其処へと覆い被さっていく。


「バース……」

アルマ、その身体を手繰り寄せ、硬く掌を結びあわせる。


「はあ……。て、俺、モロに〈あれ〉から喰らったかと思ったが?」


バースは、困惑した面持ちで、全身をくまなくはたき始める。


「安心しろ。全部付いている」と、アルマはバースの頬を指先で捻りあげていく。



―――僕達は壊しに来たのじゃないっ!全ての〈時〉に眩しく、誰にでも平等に降り注ぐ《陽の花》を咲かせると、誓い合ったんだ!


「〈運命〉なんて、決めつけられるのは、好まない……。バースさんでなくても、此処にいるみんなは、そう、思ってる。僕も、そして、アルマさん……あなたもそうだ!」


「タクト……私にそう、被せていたのか?」

「だって、アルマさんいつも、竹を割ったような振る舞いをしてるのですよ?バースさんが手を焼くほどにですね!」


当たり処がない!バース、おまえが代わりに、受けろ!


よしてくれっ!それより、タクトもそうだが、あの状態をいつまでも、あいつらに、させっぱなしではまずいだろ?


「先程のタクトの言葉、今一度、胸に刻ませよう」

「ああ、まさに〈灯〉だよ。あいつは――」

バースとアルマ眼差しを合わせ、頷き、その前方で列を成す、タクト達に駆け寄っていく。


「バースさんは、アルマさんから絶対に離れないで!」

「いっぱしの事をいいやがって……。と、いうのは、撤回する」


エルマさん、上官も一緒に【此処】にそろそろ踏み込んで来る頃ですよね?


私、あなたにそんなこといったかしら?


ちゃーんと、顔に書いてありました!


“同調の力”を発動させたのね?


……あなたの根回しにくらべたら、僕なんて、可愛いものですよ。


「まったく、ああ言えばこう、だ、なんて、誰かさんみたいよ!」

エルマ、あきれ顔をバースに剥けて、更に大きく息を吐く。


「……アタック、開始だ!」


―――了解!




陽光隊、一斉に“光”を輝かせ《闇》を吹き飛ばし、その者に向けて、閃光を轟かせていく――。



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