走行競争〈3〉
バース達は、ロウスを含め、ハケンラットがいるテーブルに移動する。
「バース、重ねて言うが、タクトに“力”は 使わせない」
アイスコーヒーにガムシロップを10投入させ、一気に飲み干すアルマ。
「すまない。もう、一杯くれ」
空になるグラスをロウスに向ける。
「ピッチャーで、お入れします」
席を立ち、キッチンに移り、冷凍庫より、大量の氷〈器〉に押し込み、なお、漆黒の液体を注ぐ。
「飲み屋で豪快に呑むオヤジ――」
バース、ほぼ、同時に脚の筋に固い衝撃を覚える。
「どうした?小銭でもみつけたのか」
アルマ、こめかみに青筋浮かばせ、テーブルの下に潜るバースに歯を剥き出す。
「この、馬鹿。思いっきり蹴ること、ないだろっ!」
「誰が馬鹿だ?おまえの脚の鍛え方が足りなかっただけだろう!」
「あー、僕、一口しか、のまなかったのに!」
タクト、テーブルに撒かれるレモンティーの、空になるカップを凝視して、更に落胆する。
「入れ直すから、そう、がっかりするな。おまえ達、いちゃつくなら、他の場所でしろ!」
「だまれっ!ロウス――」
頭を持ち上げた拍子に、その衝撃を受けるバース。
――いいな?連中を含めて〈あの事〉は、絶対に喋るなよ!
――言われなくても、承知してるっ!
[PM2:05]
時は更に進む。
「アルマ」
バース、額に汗を滲ませ、その返事を待つ。
タクトの“命”が優先だ―――。
瞼、強く絞り、ぱっと開く。バースの眼差し、曇り無し。
「俺の負けだ。仕方ない、この責任は俺が全て、
承ける!」
タクト、驚愕。
「そんな!其なら、僕“力”を使います」
「ちっとは、アルマの“母心”と、言うもの、判ってやれっ!」
アルマは、な。タクト、おまえに“情”が移ってしまったのだよ―――。
バース、穏やかに。その言葉、解き放つ。
タクト、瞬時に赤面。
アルマ、焦りの形相。
「な、なんてことを!しかも、ばかでかい声で、いうのだ?」
ハケンラット、口笛。ひとつ、吹く。
「“母心”か。たまには、いいこと言うな?」
ロウス、眼差し遠くに、思いを馳せるその言葉、バースに放つ。
「さて、と」
バース、頭部を抱え、息を大きく吐く。
子供の行く先だけでも、見られるといいけどな――。
任務終了時刻に、何が起きるか、知りたかった。だろ?
沈黙。
「あた達、さっきから“力”ばっかで、なんも見えんごたんな?」
ハケンラット、串団子を頬張り、咀嚼。なお、濃茶を口に含む。
――タクト、腰。腰ばいた!
[PM2:26]
タクト、腰に装着する革製のポシェットより〔加速〕と、ラベル張られる、筒型の容器を取り出す。