陽の咲く国〈2〉
「他に必要な物がありましたら、お申し付けてください」
一人、別の寝室に案内されたアルマに、チヨノは、テーブルの上に水を注す器を置き、ベッドに敷かれるシーツ類を調えながら、そう、言った。
「よい香りが漂っている」と、アルマは、煙が立ち込める、野に咲く花を彷彿させる 器を見つめる。
「お香です。煙が気になりますか?」
「それは、ない。むしろ、穏やかにさせられる」
チヨノは、笑みを溢し、アルマを見る。
「其にしても、お顔立ちがとても、あの方に似ている」
「おまえも、母に会ったのか?」
ええ【此処】まで、その方に連れてこられた……。
アルマ、その言葉にはっと、して、瞼を大きく開き、チヨノに振り返る。
「何故母が……?おまえは何をしっているのだ!」
「詳しくは、私の口からは……」
チヨノはアルマから視線をそらし、ゆっくりと、うつむいていく。
「口止めを……されているのか?」
「そんな……恐いお顔をされないでください。でも、これだけは、お伝え致します」
――陽の花は……。
――チヨノ、手首にはめる装飾品を見せてくれるか?
「……これを……!」
チヨノは、怪訝な面持ちをさせ、袖口に其れを含ませていく。
「どうした?何か不都合なことでもあるのか」
アルマはじりじりと、チヨノに近づき、その腕を強く、掴む。
「よしてください!」
「ただ見せろと、こっちが呈示しただけで、そのように抵抗するのは、何故だ!」
―――お願い……です。どうか………そのお手を………離されて――――。
ぱんっと、球体が弾くような衝撃がアルマに被り、その反動で、その身体は、部屋の壁に激突する。
「何を……した!」
アルマは、すかさず体勢を取り直し、チヨノを凝視する。
チヨノの手首より、ぱらりと、無数の個体がこぼれ落ち、床へと転がりだす。その一つがアルマの足元に辿り着き、それを指先でつまみ上げる。
……あなたを……あなたの“光”を〈この子達〉は感じ取って……自ら“力”を発動……させた―――。
チヨノは、散らばる個体に掌を乗せる瞬間
「させるかーっ!」と、アルマは叫びながら、身体を飛翔させ、そのみぞおちめがけ、拳を押し込んでいった。
「手間をかけさせやがって!」
アルマ、怒りを膨らませ、気を失うチヨノをベッドに横にさせ、残りの個体を拾い上げていく。
掌の中に並べ、個体の数を確認する。
「……16……子供の人数と一致する」
何処から、唸り声がして、アルマは軍服の内側のポケットに、それを押し込めると、その方向に振り向き、険相しつつ、身体を構える。
「おまえは、ヒメカの側近を装ってた。其処までして、何の目的を持っている !」
―――トキヲ……ヒトツ……ニスルタメ……ドウグ…ガ、モウスコシデソロウ……トコロデ……オヌシハジャマヲ、シタ!
その身体より黒色の霧が吹き出し、その瞳を鈍い鉛色に変え、アルマにゆらりと、歩み寄り始める。
アルマ“紅の光”を輝かせ、脚を拡げ、更に拳を握る。
「《闇》におまえは、乗っ取られてるのか?何処でそれに触れてしまったのだ!」
【国】の亡者が眠る……場所……。私は、誤って、其処に踏み込んでしまった――。
「……〈チヨノ〉か?《闇》の中から、呼んでいるのか」
―――《宝》を守って……【国】に……真の陽の花を……咲かせて――。
―――チヨノ――――ッ!
黒色の霧が室内に漂い、瞬時に消える。
「しまった!」と、アルマは、室内の至るところに視線を剥かせ、唇を強く噛みしめる。
――アルマ……。気をしかっり持ちなさい――。
アルマは、はっと、我に返り、その声に振り向く。
「母上……?今まで何処で何をされていたのですか!」
アルマ、その腕の中に滑り込み、嗚咽する。
「ごめんなさい【此処】に施されてるセキュリティを解除させるのに手間取ってしまって、あなた達の元に駆けつけるが遅くなってしまった……」
「それは……?」
アルマは怪訝となり、エルマと眼差しを合わせる。
「バース達はどうしてるの?」
「別の寝室に、タクトといる」
エルマは瞼を綴じ、深呼吸をして、身体から“桃の光”を照していく。
「バースの《風》が防御の役割をしてる……。どうやら《闇》も彼等には手を出せなかったみたいよ」
アルマ、安堵の息を含ませ、解き放つ。
「ヒメカは?」
「……此処に案内されてから、姿は――」
首を横に振るアルマにエルマは、ため息をして、困惑の面持ちを剥ける。
「あれほど、独りで抱え込まないでと、忠告してたのに……。何の為に私も含めて、彼等が立ち上がったのか、ちっとも……判ってないわ」
「それって!」
「バース達を連れて行きましょう!」
――亡者の眠る[影の塚]へ………。
母と娘、部屋を飛び出し、安眠をするバースとタクトを叩き起こす。




