外柔内剛
「ソノ、チヨノを連れてきなさい」
ヒメカは、そう言うと、錠がかかる部屋の扉を開く。
――タクト!ごめんなさ……。
「……どう見ても、まったりと、くつろいでるとしか、言いようがないな?」
部屋の隅に備え付けられるベッドで、大の字になり、さらに寝息を静かに吹かせるタクトに、一同、呆然となる。
「起きろ!」と、バースは、タクトの鼻を指先で摘まむ。
「――ぶっふぅーっ!かぁーっ」
タクト、溜める息を大きく吐きながら、勢いよく、上半身を起こしあげる。
「あれ?」
「バカチン!こちとら、散々と煮えくりかえってた状況を味わってたのだ!」
「バース、タクトを責める必要はどこにもない!それより――」
アルマの視線の先を、バースは、タクトの頬を摘まみあげながら追っていく。
「……さっきの話、紛れもなく、するのだな?」
「【国】に〈風〉を吹かせる者が訪れる。私がこの地に来てから、そんな言い伝えを語る〈民〉の生き残りが、そう、おっしゃってました」
ヒメカの言葉にバースは、険相する。
「エルマ……のことか?」
ヒメカは、静かに息を吹く。
「アルマさんと、お呼びしていいのでしょうか?あなたを見た瞬間、何処かでお会いしたような感覚が迸った……。まさかと、思いましたが――」
「私の母だ」
そうでしたか……。
「大変、失礼な扱いを……してしまって、本当に申し訳ありませんでした」
「悔やむ事ではない。おまえは、バースを救ってくれたと、いう恩がある。それで、水に流してる」
「慈悲深いのですね?」
あのー、バースさん。僕には、なんのことかさっぱりですけど?
首を突っ込む程の事ではない!
「僕、蚊帳の外……」と、タクトは頬を膨らましていると
「連れて参りました……」と、ソノが呼ぶ声に一同は振り向いていった。
「あ……」
「また、お会いしましたね?」
双方、目を合わせ、笑みを湛え始める。
「ここでは、何ですから、場所を移動しましょう……」
ヒメカは、そう言って、一行と共に、ある部屋へと招いていく。
「バース、少しは、礼儀というものを、心掛けてはどうだ!」
「腹が空きすぎて、頭がもげそうだったんだ!はあー、美味い!」
「沢山ありますから、アルマさんも、遠慮なさらず召し上がってください」
チヨノとソノが用意した軽食がテーブルに並ぶ、と同時に、バースは、千手観音の如く手に取り、貪ると、アルマは唖然し、そして、ヒメカは、微笑混じりで、そう、促していった。
「タクト、何を猫を被ってる?」
皮肉を混ぜるようにアルマは、そう言うと
「……だって、アルマさんと違って、おしとやかな――」
何だと―――!タクトッ、表にでろっ。
「正直に言っただけで、怒られるとは………」
バースッ!おまえもだ――――っ!!!
「あら、あら。随分とにぎやかなことで」
母さん、笑ってないで、止めてよーっ!
タクトとバース、乱れ髪と息を激しくさせ、応接室のソファーに着席する 。
「腹がまた、空になっちまったが、飲み物で凌ぐ事にする。どれ、ヒメカ。そろそろ、本題に移ってくれないか?」
ヒメカ、瞳を曇らせ、間を置いて、語り始める。
「【此処】はかつて栄えていた【国】をある集団によって、利益目的とした施設を、建造された地……。独占する為に【他国】の〈国家〉そして〈軍〉をも我が手中にと、日々着手してる……」
バースは、瞼を閉じて息を大きく吐く。
「その、黒幕が〈団体〉と、いうのは、俺達の〈軍〉でも調べがついてる。その、実態を見聞する為に集われた《宝》と、俺達の有志と共に踏み込んで来た」
「【此処】には様々なセキュリティが施されているわ。この私でも、その、解除方法は、残念ながら……」
「そいつに関しては、俺達で何とかする!ただ、これだけは訊きたい」
「私が話せる範囲内でもいいかしら?」
――ヒメカ【国】のもうひとつの〈時〉は何処にあるのだ………。
バースの眼差し険しく、ヒメカ、ひたすらそれを、見つめる。




