蜃気楼不撓〈後編〉
「ソノ、直ちに捕獲システムを停止させなさい!」
ヒメカの叫び、監視モニター室に響かせる。
モニターの画面は黒色に変わり、ヒメカは、一度、扉に衝突して、潜り抜けていく。
駆けつける場所の中心で、バースが微動せずに横たわり、アルマ、肩を震わせ、その身体をひたすら拭う。
「あなた達は、何て事を……」
ヒメカ、驚愕しつつ、声色憔悴を含ませ、そう、いい放つ。そして、その傍らに歩みを始めたその時に
「来るな!」と、アルマの罵声を浴びせられる。
バース……バース――。
アルマの呼び掛け、バースより反応無し。
「あなた、この人を愛しているのね?」
ヒメカの言葉にアルマ、ひくりと、身体を微動させ、その顔を振り向かせる。
「おまえに、何が判るのか!」
「……たった今、思い出しました。私も、愛する人のために、すべてを捧げ、その人の為に、生きようと誓ったことが……あったと……」
――でも〈運命〉は許してくれなかった……。
「おまえの心情には興味はない!此処にいる……バースは【此処】に風を吹き込ませようと、此まで幾度も難関を突破した」
自己犠牲……其処までして【国】を?
「それ以外に、何があるというのだ!」
アルマ、バースの身体に掌を乗せ、身体より“薄紅の光”を照らし始める。
ヒメカは、即、驚愕し
「お待ちなさい!あなたは一度、この方に“再生の力”を発動させてる。再び使うとなれば、あなたは“力”そのものを失ってしまう」と、アルマに言う。
「………何故、それを見抜くことができる?」
「今はそれ処ではありません!その方を私に――」
何をするのだ!
ぼやぼやしてたら今度こそ……この方は……ルークは――。
――二度ど、あなたに触れる事ができなくなるの!!!
ヒメカは身体を黄金色に輝かせ、掌に大輪の花を思わせる“光”を象らせ、バースの胸部に押し込めていく。
木目模様の壁に、その輝きが照らされ、眩い空間になり、静かに光は消えていく。
――ナニ、騒々しく……シテる………ノ、だ?
アルマ、その言葉に我に返り、そして―――。
―――バース……?
―――言った……だ、ろう?……アルマ、おまえを………。
「バース――ああ……バース……!」
判った……判ったから――。
がたりと、床に衝突音が響き、バースとアルマ、その方向に驚愕する。
「ヒメ……」その名を呼ぶ途中、バースは、起こしあげる上半身の動きを止める。
「此処は私に任せろ……」
アルマ、言葉を静かにバースに解き放し、床に付せるヒメカに駆け寄っていく。
「おまえこそ……其処までして、何故、バースを繋ぎ止めたのだ?」
「……あなたに辛い生き方をさせたくなかったの」
――心遣い……感謝する。
「ありがとう……。久しぶりに“力”を全開にさせたから、身体が反動しただけ……」
ヒメカは、そう言って、ふらりと、立ち上がる。
「あなた達の〈志〉を踏みにじってしまったこと、許してと、は申しません。お詫びに【国】に関わる事を呈示致します。その前に―――。
会えたのだな?
ええ、私が思い描いた以上に、逞しくなっていた……。
「頼むぞ、ヒメカ」
バース、アルマに支えられ、笑みを湛える。




