走行競争〈2〉
=ウスマ=
その名の駅に、紅い列車は停車する。
プラットホームは閑散として、車窓から見る景色、濃く深く、紅葉する山に野鳥の群れ帯びる。
「ニケメズロ。列車が減速した原因は何だ?」
「エンジン、計器、システム全て異常はありません!」
バースは、運転室にいた。
目的地【サンレッド】到着寸前での出来事に、業を煮やす。
「この、駅に停車して、既に三時間は経過している。これ以上の遅れは、不味いな」
――仕方ない。また“あれ”を使って貰うか?
「この、大馬鹿者!それは、絶対」
許せんっ!!!!!!
「――――。鼓膜、裂けた」
食堂車で、タクト共に寛ぐ、アルマの断末魔に近い叫びに、バースは目眩を覚える。
「アルマ、非常事態だ、ぞ? 許さないもへったくれもないんだ。それに――」
俺は、タクトに指示したのだ。おまえが、口を出すことではないっ!
両者、にらみ合い。ものの僅かに、アルマ、重くする口を開く。
「〈あの時〉タクトは、反動病に侵されのだ。処置が遅れてたら、命は……無かった――」
初耳。
「何故、その事を黙っていた?」
おまえが、知る必要は、ないっ!
バース、感情を含ませる声色で「いい加減にしろっ!」と、アルマに剥ける。
お二人とも、やめてください!
「どうして、そんなに喧嘩ばかりするのですか?」
タクト、双方に震える声、解き放す。
〈あの時〉の経緯を説明しろ!
タクト、しなくて、いいっ!
おまえは、黙って要ろっ!
「静かにしてくださいっ!」
沈黙。そして、注目。
「アルマさんが助けてくれたのです。ご自身の身体を張ってもらうほど、大変な状態の僕を――」
バースの険相、解除させ、アルマに憔悴の眼差し向ける。
―――アルマ。おまえ、タクトに“何か”を持って しまったな?
―――よすのだ。
〈あの時〉のタクトを思い出すのが、辛い。
ため息。それは、バース。
「だが、此のまま列車を、停めとく訳にも、いかない」
アルマ、頼む。タクトの“力”を貸して欲しい―――。
「あた達は、何ば、揉めよっと?」
ご馳走さんばいた!ロウス。
丼の縁に箸を置き、湯呑みを手に取り、飲み干すと、その手をロウスに向けて振る。
鼻歌混じりのハケンラットに対するように、ロウスの面持ち、虚ろ。
「見向きもしない。な?」
「〈あれ〉から、完全に鬱ぎ込んでますよ」
「ほとぼりが冷めるまで、要らぬ声は掛けるな!」
三人、同時に大きく息を吐く。
間を置き、バースは「俺が悪いと、言わんばかりだな?」と、顎を突き出す。
「思いっきりだ」
即答のアルマに続き
「ちゃんと、謝ったらどうですか?」
追い討ちのように、タクト、バースに促す。
――なければ、ロウスさんの美味しいご飯、食べられなくなりますよ?
「昨日はすまんっ!」
バース、シンクで食器を洗うロウスに、駿足し、深く、頭部を下げる。
反応が、早い。
バースさんは、ご飯を中心にして、全てを廻されているのです。
任務の使命より、目先の“食欲”か?呆れた奴だ。
車両の壁に掛かる、時を刻むボード。
[PM1:46]
任務終了まで、およそ、二時間―――。
―――空想のような、現実が、迫っていた。