陽の蕾
母さんが目の前にいる。ずっと会いたかった母さんが、其処にいる。沢山、話したいことはあるのに、何故かそれは、頭の中で掻き消されていく。
開き掛けた花びらが、しゅんと、しぼむ。まるで、そんな気持ちだった。
母さん、ごめん。僕は、いつの間にか、母さんの温もりより、大切なものを、いっぱいにさせてしまった。
――だから、それを、僕は失いたくない。お願いだから、どうか――。
「此処で母さんはどんな事をしていたの?」
タクトは、姿勢を正し、ヒメカをまっすぐと、見つめて言う。
「まずは、身体を休ませなさい……」
ヒメカはそう、言うと、タクトの手を引き、こつりと、床に足音を響かせる。
タクトはヒメカを停める。
「僕は、バースさんを含めて【国】に仲間と一緒にやって来た。でも、僕だけが此処に案内されてしまった【国】で何が行われているとか……とにかく、僕達は色んな事を確かめたい!母さんがその事を知っているのならば、話しをしてほしい」
ヒメカの瞳、瞬時に曇る。
「そう……ルークが、あなたを連れてきた。だから、そのような、服を着ていると、いう訳なのね……」
「こう、見えても僕は、此までバースさんを通して〈守る〉と、いうのはどんなことかと、勉強した!みんな、自分の為じゃなくて、目の前の大変な事に、身を張っていた」
――あなたは、其れを何処までやり遂げたの?
「それは――」と、タクトは、言葉を詰まらせる。
「やはり、あなたは、まだ未熟――」
ヒメカは、タクトにそう、告げて、その手を強く握りしめ、再び、歩みを始める。
母さん、僕を何処に連れていくの!
お願いだから、今は、私のいう通りにして!
「母さん!」
ヒメカに連れられ、ひとつの部屋にタクトは、押し込められ、扉は閉められる。
外より錠のかかる音、タクトの胸の内に、鋭く突き刺す感覚を刷り込ませる。
――母さん、母さん、母さん!
タクトの叫びに近い呼ぶ声に、ヒメカは、扉に背を付け、耳を掌で塞ぐ。
――ごめんなさい……タクト。
言葉を胸に含ませ、ヒメカ、頬を濡らしていく。
―――一方、その頃………。
「腹減った」
「私はそれどころではない!」
白い空間にいる、バースとアルマ。背中を合わせ、その床に腰をおろして、言葉を紡ぐ。
「無駄に動いても体力が消耗するだけ……と、判ってるが――」
「おまえも、同じ事を考えていたのか?」
「――まぁ、な」
双方、ゆっくりと腰をあげ、身体を正面とさせる。
稽古をつける……と、するか?
手加減はどうする?アルマ。
躊躇うな……。
「〈闘い〉で、いくぞ」と、バースは身体を“橙”に輝かせる。
「挑むところだ――」
アルマも“紅の光”を照らし、眼差しを鋭くさせる。
――〈奴等〉は絶対に動き出す。其処を突くのだ……。
――今発動させてる“力”を感知されていたらどうする?
――安心しろ“同調”されないように俺の“力”でロックしている!
――器用だな?
――全力でかかってこい!
「承知した!」
アルマ、更に身体を“深紅”に輝かせ、バースへと、駿足で向かっていった。
――双方の“光”交わり、空間、朱色に染まる――。




