幻灯廻廊〈3〉
扉は開かれ、一行其処へ一斉に靴を鳴らす。その先の光景に、誰もが驚愕する。
「トンネル?しかも、壁に篝火が焚き付けられている……」
幻想的に辺り一面に蛍の瞬きの如く、灯される茜色の通路に、先頭を行くタクトは、更に、その言葉を紡いでいく。
「【国】の〈民〉と選ばれた者しか通れない道……。あなた達は、正にその資格を持ってるの」
後を追うように子供の手を引くエルマが、そう、言った。
「〈団体〉は何処から【国】に侵入を成し遂げたのだ?」と、バースは、エルマに問い掛ける。
「……その情報は、清風隊も、幾度なく試みたわ。でも、後一歩と、いうところで、決まって妨害された――」
「やはり【他国】の〈軍〉或いはそれに関わる何かが、存在しているのだな?」
「世界中の【国家】でさえ〈団体〉に頭が上がらないのも知っているの筈よ。でも、その一方で不可解な出来事も発生してる……」
「〈団体〉が女性のみの【国】での労働に求人を掛けた……。其れも俺達の〈軍〉が目につけている」
「確めるしか、術がないわ。まずは、此処を抜ける事を考えましょう」
エルマ、言葉を澄みきらせ、前方に視線を向ける。
「どうした?バースが気になるのか」エルマと手を繋ぎ後を振り返るレノンに、アルマは微笑混じりで言う。
「あなたを挟んで会話してるから、困惑してるのね?」
それなら――。と、エルマ、最後尾のバースをアルマへと押しやり、レノンと共に、その位置に治まる。
――お二人とも、どうぞ、ごゆっくり!
「母上!」と、アルマ、困惑を含む声色を剥ける。
「ごほっ」と、バースは咳払いして、小型通信機を作動させる。
『前方には、まだ、それらしきものは確認できません』
「かなり、歩いている筈だ。そろそろ、到着していい頃だぞ?」
『僕にそう、言われてもさっぱりですよ!エルマさんは、何かご存じなのでしょうか?』
「確認する」と、バースはタクトとの通信を終了させる。
おい、いい加減に【国】のからくりを証せよ!
そんなの、私が言っても意味ないの。
母上、らしい。真実は自身で探りあてる『頭でっかち、尻つぼみ』では、己の為にならないと、言いたいのですよね?
「正解よ、アルマ」
エルマが満面の笑みを湛えると、同時に
『バースさん!前方を今すぐ確認してください』
タクトより通信が入り、バースは、瞬時にその方向を目視する。
―――何だ?あの、白いものは!
―――見えました?でも、何だか妙だと思いませんか。
双方のやりとりにアルマもまた、その方向を凝視する。と、怪訝な面持ちと、させていく。
光が、迫ってきてる?
アルマのその言葉に、バースは、険相し、エルマにその顔を剥ける。
「エルマ、此のまま突き進んで大丈夫なのか!」
「……来るのを待つ――の。バース」
―――何だと!!!
バースの叫びと同時に、廻廊に眩しく白い光景が覆い被さる。
――――静寂、にバース耳を研ぎ澄まし、辺り一面を凝視する。
「バース!」と、アルマの声に我に返り、手を重ね合わせて、更に身体を手繰り寄せる。
「畜生!やはり〈罠〉だったのか」
「バース、それは、絶対にあり得ない!母上に限って、そんな、仕打ちをするなんて、ない」
「おまえ、どんだけあいつを信じてるのだよ!」
「私の母を侮辱するな!」
アルマ、目尻を吊り上げ、バースにその眼差しひたすら剥ける。
「……苛ついて、つい、感情的になっちまった。すまなかった」
まずは、状況確認だよな?
そうだ……。心を静かに――して。
「おまえがいて助かった……」
「――待って……バース」
アルマ、息を柔く吐き、バースの腕を解して一歩退いていく。
―――俺達と、あいつら。どっちが嵌められたのだろうな?
バースの呟き、白い空間に――木霊する。




