幻灯廻廊〈2〉
まるで俺にも〈運命〉が課せられてる。エルマの言い方はそんなものだった。
そんなもん、知ったことではない。目の前に難関があれば、突破して、目的を果たす。俺は、今までそうやって生きていた。
〈戦〉では、同志を犠牲にさせてしまった。そして、アルマにも、傷を負わせてしまった。
唯一の俺の〈汚点〉と、今でも頭の隅っこで浮かばせてる。
ある意味では【国】は〈敵陣〉となるだろう。
そうなれば、俺が〈あいつ〉の敵となる?そして、アルマと、タクト。あいつらに、どう、顔を向ける事ができるのだろうか?
連れてきた連中は、同行なし。
今更ながら、気づくのは遅いかもしれない。
俺は、結局、人を宛にした行動をとっていたにしか過ぎなかった――。
――〈仲間〉それが、俺のよりどころだった、と――。
「うーん……。間違いなく、此れがその、入口と、直感はするけどなあ……」
バース、石碑の廻りをぐるりと、一周して、腕を組み、眉に皺を寄せる。
「見解は、正しいわ。後は、どうすれば、突入出来るかと、あなたが示すのよ」
「はっ?俺に押っつけて、あんたは高見の見物と、洒落込むのかよ?」
「言ったでしょ?あなたの《橙の風》が囁いたと……」
「はあ」と、バース、頬に溜める息を吐く。
バースさんも【国】に入る為の《鍵》なのですか?
「それとは、違うわ。バースには、また、別の〈役割〉があるの」
母上、私は【国】そのものは、知らない。あなたが何か知っているのならば、是非、説明して頂きたい。
「……消えた〈時〉を風と共に吹き込ませる。それが、バースの《血》よ」
エルマの言葉にアルマの瞳、ぱっと、輝きを含ませる。
「母上、バースは……《主》を受け継ぐ者と、申すのか?」
心当りが、ある。そんな、お顔ね?アルマ。
「……半ば、おとぎ話のはずです」
【サンレッド】の境界線の《扉》は、どのようにして、開かれたのかしら?
「二人とも、止すのだ!例え、そうでも、俺は、そんな柄じゃない」
〈陽の光〉と《風》をひとつにする……と、いうのはどうですか?
「タクト?」と、バースは、怪訝になる。
「勘です。バースさんの“力”は、僕から見れば、特殊なものです。これまでの経緯を辿れば、奇跡的な、いや、摩訶不思議と、言いようがないことばかりでした」
「タクト、それは、買い被り過ぎる」
バース、私も、タクトの意見に賛同する……。
「おい、アルマ!おまえまで、俺が何者かと、決めつけるのか?」
――私に風を吹き込ませたのは、おまえだった――
バース、アルマの言葉にぱっと、瞼を大きく開く。
「感じていたのだ。おまえを私が必要と――」
アルマの涙、頬に伝わり、その雫、乾く地面に染み込まれていく。
「……おまえ、どさくさ――過ぎるぞ……」
――決まりですね?バースさん。
バースの掌がアルマの肩に乗る最中、タクトの言葉に双方の動き停まる。
「僕と子供達で“光”を灯させます。バースさん、あなたは、アルマさんと《陽》と《風》を繋ぎ合わせてください!」
―――タクト。一応訊くが、方法は、どんなのかと、口にできるのか?
―――さあ?僕、子供ですから!
「………其れを、何処でしろ。と?」
「バース、石碑の裏側にも、何か彫られてるのは確認したのか?」
アルマの指す場所へと、バース、顎をつきだしながら除き込む。
「この程度で、いいのなら……」
「いつも、ぶっかましてるだろう?今更、何をしどろもどろと、してるのだ?」
アルマ……場を――。
えーいっ、女々しい!
「はいはい、お二人のポジションは其処でいいから、タクト達も、スタンバイしてちょーだい!」
エルマ、満面の笑みを湛え、更に手を叩く。
――あの、化け猫め……。
――口を慎め、バース!
「タクト、待たせちゃったね?」
「いえ……此ればかりは、ご本人の自覚がなければ……ですよ」
――みんな、あの、大きな石のお日さまに向けて、あの“光”を注ぎ込むよ?
子供達、返事と挙手を一斉にタクトに示す。
エルマ、土笛を手に取り、音を奏で始める。
タクトと16の“光”灯され、陽の刻印に穏やかに、迸る。
「バース…… この〈灯〉何処かで見覚えがあると思わないか?」
「ああ、いつも、近くで照らされていた……」
双方、顔を正面にさせ、一度眼差し重ねると、手を結ばせ、深く身体を手繰り寄せる。
私に……あなたの風を受け止めさせて―――。
舞い上がらせて、大地に陽と共に吹かせてやるさ……。
石碑、更に光を含ませ、眩く、輝く。
その閃光、帯となり空に昇り、足元の乾く大地に、新緑の薫り、水面が揺れるが如く、沸き上がる。
――陽の形の扉、虹色の灯より表れる――。




