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泡影通過

列車は駆け続ける。それは、光の速度となり、ひたすら何処かを目指し、怯まず真っ直ぐと羽ばたく鳥の如く、突き進む。


「私の制止も振りほどき、おまえは――」

アルマ、タクトの頭上に軽く拳を押しあて、そう、言うと

「ちゃんと、加減はしましたから、いいではありませんか? 」と、タクトは、頬を膨らませた。


アルマ、微笑して「私も母親になる日が来るとならば、おまえみたいな息子だったら、毎日振り回されるだろうな?」と、言うと、タクトを残してその場を後にする。


「……どんな意味?」タクト、思考を掻き回し、車窓の風景に視線を向ける。


楕円形の丘、彫刻が施されてる木の柱。均等に積み上がる岩石と、その目に映していく。


「この先に【国】がある。其処に、母さんも――」

タクト、感無量と、想いを馳せていると、背後より囁く声に耳を澄ませ、振り返る。


「……あれ?」即、怪訝となり、身震いしながら再び車窓に視線を向けると、更にその光景に驚愕する。


武装する集団、其処より武器を重ね打ち合う音が響く。更にその頭上を見上げると、空中に無数の矢と石の砲弾が飛び交い、地面に視線を向けると、人が重なり合い、微動せずにいる。


「大変!バースさんを呼ばないと」と、タクト、身体を翻す。


――敵が多勢過ぎる。ひとまず、撤収して態勢をと調えるぞ!


――あとわずかで、本拠地を陥落させられるのだ。怯まず 、此のまま突き進めばいいだろう!


――それだと、ただ、犬死にするだけだ。俺の言う通りにしろ!



タクヒコ、おまえもだ―――!



タクト、その言葉に驚愕し、すかさず

「僕の名前を間違ってますよ!バースさ――」

そう、言葉を詰まらせ、我に返る。


「落ち着けーっ!僕。姿がないのに声がするってのは……いや、それは、絶対ありえない。いやいや、でも、はっきりとした声だったし………」


タクトは身体を大きく震えさせ、一人、言葉を解き放す。


―――何をしゃがみこんでいる!


いーっ!あなたは誰ですかー?此処はあなたがいるべき場所ではありませーんっ。


「ボケたことをぶっかますな!」

その罵声と共に、襟首を掴む感触を覚え、タクト、恐る恐るその方向に、視線を剥ける。


「何、泣きかぶって……どうしたんだよ?」

バース困惑の面持ちで、タクトのその顔を除き込む。


―――今度……は、今度こそ、バースさん。よ、か……た―――。


タクト?おい、待て!しっかりしろっ。



―――タクト―――ッ!




薬品の臭いを鼻につかせ、タクトは、ふと、綴じる瞼をこじ開ける。


「あれ?」と、困惑する眼差しの先に、バースがため息をする姿があった。


「この、バカチン。あと、一歩の処で世話を妬かせるな!」

バース、安堵を含ませるその言葉と掌を、上半身を起こすタクトに 押し込んでいく。


到着するまで時間はある。まだ、寝とけ……。


心配……かけさせちゃって、ごめんなさい。


バース、腰掛ける椅子の背もたれに深く背中を押し込め、腕と脚を組み、タクトを見る。


「話しを聞いてやる。何があったのか、言ってみろ」

「バースさん。たぶん、信じてくれない」

「ぶっ倒れ込む程の事だったのだろう!」


だって……。


いいから、言うんだ!



タクトが目にして、耳に入れた出来事を一通り聞き終わり、バースは、瞼を綴じる。


「それ〈過去〉を“力”で感知したのだろう……」

バースの言葉にタクトは、瞬時に驚愕する。


「そんな!僕、今までそんなこと一度も――」

「〈あの時〉と、近い。師匠の思考をおまえは“力“から読み取った事がある。今度は、この地に漂う〈思念〉が原因だと、俺は思う……」


僕、自分が怖くなった。


怯えるな。ましてや、おまえは〈あいつ〉の息子だ。潜在的な“力”も、今後出てきても、何も不思議な事ではない………。


「母さんの?でも、母さん、自分の事言う人じゃなかったし、それに――」


「あんまり考えるな。訊くことあるなら〈あいつ〉に会ってからでも、十分だぞ」


「はい……。だけど、その前にやることはありますけどね?」


「ああ、俺達の本来の目的だよな?」


僕達の暮らしや、子供達の未来に影を落とす〈団体〉の実態が【国】に隠されている……。


阻止するか、塗り替える。どっちにしろ、大掛かりな〈任務〉なるぞ!いいな?タクト。



「了解!」

タクト、声を澄みきらせ、バースに敬礼する。


「徐行しだした……。準備をするぞ!」



紅い列車、一度、汽笛を鳴らし【ヒノサククニ】の地に到着する。

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