走行競争〈1〉
癇癪起こして、寝る。アルマの癖だ。
目一杯“光”を撒き散らす付録も付いてくる。
それ、最初に見たのいつだったけ?
そういえば、こいつのおふくろさんも、遠征に行ったきり帰ってこない。
その場所は、明日到着する目的地。
【サンレッド】そこでは〈戦〉が繰り広げられていた。
激戦だった。同志も、殺られた。
――辛いなら、残ってもいいのだぞ?
――おまえと一緒なら、怖くない。
抱いた。
まだ、16の歳のあいつを、俺は手を出した。
泣いた。
《敵》に突っ込んだあいつは、負傷した。
守れなかったことに、頭にきた。
妙な運の巡り合わせだ。
停戦になって、一年後〈あいつ〉が【国】を目指したのも、其処だった。
今回も、其処で終わる。
――そして、始める。
タクト。俺、おまえのこと、利用しているのか?
おまえが《鍵》と、すれば、必ず目指す先にたどり着く。
――勝手な俺を赦してくれ――。
娯楽、学習室。タクトの回りに子供たちが押し迫っていた。
お兄ちゃん、この本読んで!
わーい!お兄ちゃん、ジョーカー引いた。
タクトさん、この、問題の解き方教えて!
――お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃん!
「人気者だな?」
子供に押し潰され、身動き取れないタクトに、身を乗りだし、覗きこむバース。
タクト、険相。視線、バースから反らす。
「どちら様ですか?」
バース、其までの微笑み止めて、苦虫を噛みしめる形相と、なる。
「そう、怒るなよ。頭に血が昇って、思わず、だ!」
アルマさんは?
びーびー泣きまくって、疲れて寝ちまった。
タクトの険相、なお、深く、眼差し鋭い刃物の如く、バースに突き刺していく。
挑発?
こいつ、今までこんな顔してたか?
まるで、母親を取り合う子供のような目。
一丁前に、色恋沙汰を咬ましてるにも見える。
――ぼやぼやしてたら、横取りされそうだ―――。
「あなたのこと、いつも、恋しがってました」
唖然。その言葉にバース、我に返る。
「それは、スミマセンでした」
「今度、何処かに、バホバホ行こうとするならば、首輪と鎖を掛けますよ!」
「犬か?俺は」
隊員の皆さんも、きっと、同じ気持ちです。
タクト、鬱の形相。更に涙声。
「了解」
バース、右手を掲げて敬礼。
バース、室内の少女にふと、視線を追う。
「あの、ツンデレ娘。誰かに似てると、思わないか?」
「あは!バースさんも、気づきましたか?」
おーい、キキョウ!
何だ?タクト。
「ぶふ、もろ、コピーしてやがる!」
「でしょ?僕も最初は戸惑いましたけど、諦めてます」
「面白いから、放っといている?」
「そうとも、言えますね!もう、完全形態で、手のほどこしがない状態ですよ」
あの、変顔も、か?
はい。
「ならば、私は貴様たちの真似をさせて貰おう」
地獄の魔物が、這い上がる如くの声色に、双方、一斉に振り向く。
「いっ!おまえ、たちなおり早っ」
「バースさん、外に干してた洗濯物、取り込まないとぉ」
「待て、待て!その前に――」
―――歯を食いしばっとけっ!
頭上に拳のタクト。
一度、室内の天井まで届き、落下する、バース。
子供たち、英雄舞台の観賞と、眼差し輝かせる。
アルマ、深呼吸をしながら、手首に指先絡める。
「キキョウ。あの、姿勢はもっとこうだ!」
身振り手振り、何かの指導を示す、アルマだった。