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遥かなる鮮明 〈前編〉

夜の帳が降りる頃、積もる雪は溶け、大地に根付く草葉から、蒼い水滴滴って地面に含まれる。


「あー、出発は明日の朝飯食ってからにするぞぉう。今日は、八両目と九両面の警護にあたる者以外は、さぼれっ!」


通信室。隊員一同、呆気の形相 、バースに剥ける。


「隊長、俺は、あんたのメリハリある性格か羨ましい」

眉をひそめるタイマン、そう、言葉にする。


「気にするな、気楽にいこう」と、バース、欠伸をがふりと、ひとつして、瞼を掌で擦りあげる。


おい、バース。おまえは、俺達をそっちのけにして、結局何をしていたのだ!


「……怒るな、タッカ。バンドはとっくに、持ち場に行ってるぞ」


そういえば、タクトはどうしたのだ?


タクトくんなら、わんぱくチビッ子カルテットのお風呂のお世話に行ってるわヨ!


「ならば……」と、バース、通信室を後にする。



――ポール、ちゃんと、肩まで漬かってよ。


「お、芋洗い状態だな!」


男児四人の入浴中のタクト、扉が開く音に気付き、更に驚愕する。


「バースさん、何ですかぁ……。せめて、その……」


「男同士だろ?何を女々しそうに言うのか、俺にはさっぱりわからん」


バース兄ちゃん、せなかあらってあげる。


「おう!頼むぞ、レノン」


バースの背中に泡を含むタオルが乗り、上下に移動する。


「レノン、もう少し右の辺りをゴシゴシしてくれ。……よしよし、痒みがとれたぞ」


バースさん、まるで〈おとうさん〉ですね?


タクトのその言葉にバース、瞬時にはにかむ。


「よしてくれ。俺はまだ、そんな歳 じゃないぞ」

「僕から見れば、レノンくらいの子供がいても、可笑しくはないですよ」


………やっぱり、そうか?


はい。


「身は固めなければならないと、思いは、してるけどな。て、レノン。わざわざ桶の湯に水を薄めるな!」


アルマさん、待ってますよ。


……ああ。


「僕、先に子供達とあがらせてもらいます」

「湯冷め、させるなよ」


バース、タクト達と入れ替わり、浴槽の中へと身体を沈めさせ、息を大きく吐く。


――今すぐでも、手に入れたいさ………。




深夜、車内は静まり、通信室より電子機器のキーを叩く音響き渡る。


「奴等にさぼれと言いながら、おまえは、何をしてるのだ?」

バースと掌を重ねるアルマ、その頬を更に近付けさせる。

「……。今日は随分と、大胆だな?」


―――おまえが、愛おしいのだ……。


「俺が先に言おうとしてたのを………」


バースの指先、アルマの唇を這い、髪をすくいあげる。


双方顔を正面にさせ、眼差し重ねると、更に身体を結び会わせる。


バースの唇、アルマの耳たぶに着き、首筋、と、移動させ、綿毛の感触に深く口づけを求めると「バース……待て………」と、甘くふくよかな囁きに、その手を停める。


場を………わきまえろ………。


絞り出すようなアルマの声に「ケチ」と、バース呟くと、額に、軽く拳の衝撃を受ける。


――約束する。だから、ちゃんと、待っててくれ………。



アルマの頬、涙で濡らし、バースに身体を静かにゆだねていく。



――アルマ………。


バースの吐息、アルマに吹き込まれ、溶けて、消える ―――。

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