隠密助走〈後編〉
「バース、資料室は厳重なセキュリティが施される。それを、何事なく侵入できたのか?」
「おまえ、よく、軍内部の事情、知っていたな?」
アルマ、険相。
「噂、だ」
「――。閲覧できるのは、上層部のみ。俺の素性を知っているヤツがわざと招いた。其しか、考えられない!」
《罠》ですか?
そうとも受け取れるが、先ずはロウスの名が其処に記されていたかのか、だ。タクト。
「【育成プロジェクト】何て、いかにも怪しさが含んでる。そして、ロウスと、きてる。此処までくれば、嫌でもこう、考えらる」
バース、息を吸い込み、目尻上げる。
――ロウスは利用されている。
驚愕。
〈軍〉が其処まで調べる意図は?
〈団体〉の情報を聞き出す。そして、利用する!
ロウスさんが、その、親族だなんて何処で知ったのでしょうか?
〈軍〉の何者かが〈団体〉と繋がっているのさ。
そっちが手っ取り早いのではないのか?
〈団体〉に〈軍〉の情報が漏れるのも恐れていた。
揺すりをかけるのに、うってつけのターゲットとして、ロウスを選んだ。
静寂。
「アルマ、あいつの“力”は何か知っているだろう?」
「“照準”相手の動きを感知して、その行動先に“力”を落とす、だ」
「他にも“力”は持っていた。あいつとは、同期で〈軍〉に、入った。俺の“力”も上抜く程のを、な」
――それが、ひとつしか残ってなかった。気づいたのは、隊の結成時だ―――。
「ロウスさん、どんなお気持ちで、この任務を遂行されていたのでしょうか、ね?」
「話が、見えない」
アルマは、前髪を掻き分け、息を大きく吐く。
「判らないのか?ロウスは〈軍〉に拷問を掛けられたのだ!しかも、倫理、道徳的に反している方法を、な」
「其処まで至る経緯が、全くもって、理解できない!」
アルマ、感情を含ませ、言葉を吐く。
「アルマさん、何だかお疲れ気味ですね?」
「ああ、そうだ。タクト」
バース、険相。
「資料室、か。タクト、転送装置を見せて欲しい」
「はい」
タクト、アルマの促しに応じて、それを、差し出す。
「やはり、そうだ。記録にこんなマークが付いている」
「リターン?それじゃあ、この装置を持っていた人は――」
タクト、装置の画面を覗き込み、バースに視線を向ける。
「俺達の行動を知っている奴だ。恐らく、そいつが〈あの時〉にも、関わっている!」
「バースの拾い癖を知っている人物だ」
「おいっ!俺がいかにも盗人みたいな言い方だな?アルマ」
「ほぼ、近いではないか?おまえが、難関の非常事態に真っ先に飛び出すと、いう、使命感の塊の奴だとも判ってのことだ」
お二人とも、心当たりありますか?
考えたくないが、あの方しかいない。バースが煮え湯を飲まされたと、いつも、愚痴っていたあの方――。
「ハゲ茶瓶か?」
バースの形相、怒り、膨らませる。
―――奴が《罠》を仕掛けた犯人だと、いうのか?だったら、今すぐ、行って確かめてくる――!
「アルマッ!その、装置よこせっ」
「断る!」
アルマ、すかさず、それを、腕の中に押し込める。
よこせ、よ!
嫌!
バース、アルマの腕を掴み、解そうと握力を注ぐ。
「バースさん、乱暴ですよ!ああ!アルマさん」
―――やめて、バース!
頬を這う涙とともに、薄紅の光の粒、アルマより放たれる。
すすり泣き。
アルマ、崩れるように、床へとその身体を落とす。
バース、憔悴して、アルマの肩に手を乗せる。
「タクト。すまないが、部屋、出てくれ――」
アルマさん、僕に転送装置を渡してくれ ますか?
タクト、バースを押し退け、アルマの濡れる頬に指先を這わせる。
「泣かないで。僕、行きますね」
するりと、その手を離し、タクト、アルマの乱れ髪に手串する。
退室。
アルマ、咽び。なお、止まらず。
バース、深くアルマを手繰り寄せ、頬を挟む。
抱擁、口づけ。
行かないで、行かないで、行かないで―――。
行かないから、もう、泣くな。
双方、重ねあい、更にその身体、結ばせる。
――バース。
アルマの吐息、バースに注がれ、幻想広がる。