幻林間〈14〉
一夜が明け、空が薄紫の下で、ザンルと少年二人がいた。
「コータくん、其所は脇腹を引っ込めさせて、腕をピンと伸ばすのよ!」
いいねーっ!ベクトルくん。つま先を小刻みにさせながら、その場でジャンプしてごらん。
ザンルさん、脹ら脛がちょっと……。
えーっ!嫌だ。二人とも、休憩よ!
「ザンル。朝からやけに、ハイテンションだな?」と、アルマが瞼を擦り、欠伸をしながら、ザンルに歩み寄ってきた。
「アラ、アルマちゃん。髪、鳥の巣みたいでバサボサよ!」
「今から洗顔をするところだ。しかし、この二人に、おまえは、何をさせている?」
ンフ。この子達ね、ワタシに特訓受けたいって、お願いしてきたから、こーやって――――。
あーっ、よすのだ!おまえの話は長いうえに口説いから、聞いてる方は、居眠りしてしまう。
「アルマちゃんのいじめっこ!」
「聞き捨て成らないことを言うな」
どれ、私も身体が鈍っていた。相手になれ!
でもぉ、大将に見られたら怒られるワよ?
あの、テントの中で、大の字になってグースカ寝てる!
待って、待って。きゃーっ、アルマちゃん!
アルマの拳、ザンル、腕を前に交互にさせて受け止めて、その、動き止まることなく、右足を軸にして、左脚を振り上げ、全身を旋回させる。
「ちょっとお、二人とも、何してるのよ!」
え?ザンルさん、お手本見せてるから、僕達も……。
基礎が身に付いてないから、それは、ダメーッ。キャーッ!
「口を開くたび、動きが止まっているぞ?ザンル」
――あなた、ホントに身体なまってたのーぉお!
何だろう?この声―――。
「この、馬鹿!防御を解くな」
「いっ!」と、いう、悲鳴と共に、タクトは地面へと、転倒する。
「くーっ、効いたぁ!」
両膝にへばりつく落葉を右手で払いおとし、背中を手の甲で擦りながら、立ち上がった。
「威力は抑えていたが“弾力”の打ち所が悪かったら、俺が、バースにぶっ飛ばされていた」
タッカさん、バースさんに対しては、ある意味で、一歩退いてるのですね?
冷やかすな。
「―――。おととい、此処で自主トレしてたの、ばれてるのでしたよね?」
「バースが、今一度、確認している」
タクト、無言。
「先回りされた。そんな見解か?」
「いえ、そう言う訳では――――」
顔に出てるぞ。
タッカ、木漏れ日に眩しさを覚え、瞼を綴じる。
「―――この太陽も、人の手で造られた」
「何だと?」
「あれ?タッカさん。バースさんか、タイマンさんに何も聞いてないのですか」
タッカ、首を横に降る。
「そうですか。ならば、僕がポロリと言ったこと、黙っててくださいね」
キャンプ地に戻って来るまで、僕が寝た振りしてたの、ばれちゃうから―――。
タッカ、吹き出し笑いをする。
「あいつの慌てっぷりは、見物だった」
――《親父》を大切にしてやれよ、タクト。
タクトにタッカの拳が向けられる。
「はい……」と、返事と共に、双方の拳、音を鳴らせ、更に、腕を絡ませていった。




