幻林間〈12〉
「其処に入れ!」
無精髭の中年らしき男は、タクトを一畳程の部屋に押し込むと、扉を閉じて、鍵を掛ける。
「タクトを人質にするのか?」
「無駄口を叩くな。貴様をこの場で撃ち抜くなど、躊躇いはない!」
「俺達は、丸腰で此処まで来たのだ。その意味が何かぐらい、空気を読めよ!」
ワシが質問する事だけ述べよ。それ以外はおまえ一切口にするな!
やなこった!
男、瞬時に険相し、右手に握る銃の引き金に指先を乗せる。
「なぬっ?」
男の動作が止まり、バースその手を目掛け、左足のつま先を突き出していく。
二回、三回と、其れは空中で回転し、差し出すバースの掌に収まった。
「タイマン、これ、持っとけ」と、バースは、放り上げる。そして、すかさず男の背後へとまわり、両手で、首、腕と、挟み込んでいった。
「俺は野郎に抱きつくのは、趣味じゃないが、其処は我慢するぞ!」
「貴様らは、一体何者なんだ!」
隊長、この銃、安全装置が解除されてないうえに、弾薬入ってないぞ。
「間抜けもいいところだな」
バース、男よりその腕を解す。
「ワシを拘束するのではなかったのか?」
どっちみち、あんたとは相手になるか!
「タクトを解放しろ」と、バースは、男に促す。
んー……。もう、いいのですかぁあ?
一同、唖然。
「何、口元によだれのあと、つけていやがる?」
えー、僕、いつも、この時間寝てたし………。
床に付き、タクト、欠伸をして、寝息をたてる。
「何だ?この、少年は」
「これでも、軍人のはしくれだ」
男に訊かれ、バース、困惑の面持ちで言う。
「随分と、無垢な顔立ちだ。おまえ達に、大切にされているのだな」
男はタクトをソファに横にさせるようにと、バースに促す。そして、タクトの身体に、毛布が掛けられる 。
「おっさん、鋭い事突いたな?」
「あの頃も、これくらいの少年兵がいた。だが、どれもこれも、瞳や顔立ちは、澄みきってなかった」
おっさん、あんたの職業は何だよ?
軍事事業の開発と、軍事医を兼務していた。
「俺達と同業者か……」
何処にいく?
客に茶を振る舞う為にキッチンに向かうのだ。
「安心しろ。おまえ達が何者かは、この、少年が教えてくれたようなものだ」
天井の灯、瞬き、その都度部屋に明暗が訪れる。
卓上に4つの器と、軽食を男は乗せる。その一つにバースは、腕を伸ばし、手にすると、一口と、口に含ませる。
「此処には他に誰か居るのか?」
「二年前まで相棒がいたが、病で逝った」
「――。悪い思い出をほじくってすまなかった」
気にするな――。
「それでも此処に残っているのは、何の為だ?」
此処は、人工的に創られた地だ。と、いうのは、解ったであろう?
目的は、だよ!
「〈軍〉の演習場………と、してだ」
隊長!
待て、タイマン【何処の国】の〈軍〉と、訊くのは後でいいっ!
「おっさん、この〈地〉にどうやって入ってこれたのだ?」
「念の為に訊くが、おまえ達は何の為に〈此処の大地 〉に踏み込んできた?」
あんたの正体が丸っきり判らない!
《敵》か《味方》をまだ、探っているのだな?
「そんなところだ」
「……。まあ、よかろう」
――ワシは、相棒と共に、この人工自然の管理を任された。自給自足の共同作業は、業務を危うく忘れる程、心を踊らせたものだ。無論、ここが〈軍〉の施設など、思わせたくないほど、この地を手入れした。
「更に〈軍〉は新たな計画を企てる―――」
「どうした?急に黙りこんで!」
この〈地〉の側で、兵器の威力のテストを実行した………。
男は、うつむき、更に肩を震わしていく。
「ワシは………ワシは―――」
バース、瞼を閉じて、息を大きく吐く。
「あんたは、その一方で、手柄をたてた」
男の顔、バースに向けられる。
――あんたは、この人工自然で俺達を楽しませてくれた。
タイマン、タクトを起こして、今すぐここを出るぞ。
バース、寝息をたてるタクトを揺すぶり続ける。




