幻林間〈2〉
「こっちに運んでこい!」
バース、機材を持つバンドを、岩石が埋め尽くされる川岸 に手招きする。
「ペーハー、雑菌、硬度――。よしっ!すぐ、使える値だ」
バンドさん、バースさんは何を調べたのですか?
水質だ。飲むに適してないと、どうなるか分かるだろう?
学校の遠足で生水は飲むなて、しおりに書いてあったの、思い出しました。
「アニキ、もうちっと川を昇れば水源地があるはずだぞ?」
「あの山の高さを見て、子供たちの足で 何事もなくたどり着けると、思えるのか?」
バンド、山を見上げる。
――あり得ない。
沸かせばなんともない。 タクト、列車に戻って、資材等を降ろすぞ!
あっちにテント、こっちに衛生面の設備と、バースは、息をつく間もなく、隊員達に指示をする。
まてーっ!その石の積み方では、調理器具がひっくり返るぞ。
「バースさん、いつも以上に騒々しい」
タクト、険相させ、食器が詰まる箱を、平らな岩場に置く。
「ふて腐れるな。あいつにも、たまには息抜きをさせてやれ!」
はあ?
何だ?やけに不満だな。
息抜きだったら、アルマさんといつもされてますよ?タッカさん。
――――。さっさと、準備して、夕飯の支度するぞ!
「あー、野外活動の基本といえば、飯。もとい、食事だ。これ無しでは、何事にも進ませることは、出来ない。グループに分かれて、つくってみなさーい」
列をなす子供の前で、バース、背中に腕を回し、能弁混じりをする。
子供一同、返事と挙手。
「よしよし、いい返事だ。指導は俺とバンド、そして、ザンルがする。くれぐれも、事故がないように、教わった通りにするのだ」
それでは、始め!
「僕は何をしたらいいのだろう」
「アニキの助手をすればいいだろう?」
「いえ、僕がいなくても――」
タクトッ!私達の班に交ざれ。
「何だ?あのタメ口の言い方は?」
「バンドさん、気にしないで下さい。キキョウの性分なんですよ」
そういう訳にはいかないのだよ!
「うわーっ!タクトーッ。助けてくれい」
情けない声をするな!人を呼ぶときは『敬語』をちゃんと使えっ!
「バンドォ!自分が面倒見るグループほっといて、何をおっ始めてるのよ?」
見なさいよ!大将のグループ、飯盒に火をつけてるワよ。
押し問答のバンドとザンルから離れ、バースの側にタクトは行く。
「列車に戻って、ロウスの様子を見てこい」
「え?ですが―――」
こっちは間に合ってる。飯が出来たら、呼ぶから行ってこい。
砂利道踏みしめ、タクト、身体を翻す。
「おい、バンド。タクトから応答あったか?」
簡易テーブルに、料理が盛り付けられた 皿を並べながら、バースは、そう、バンドに訊く。
「ない」
バース「ちっ!」と、舌打ちすると、小型通信機を装着する。
「アルマ、俺だ。タクトは、そっちで何をしてる?」
間を置き、バース瞬時に険相。
「どうした?アニキ」
「とっくに列車から出ただとよ!」
こっちは任せて〈対策〉を練りに行け!
「すまない、バンド」
半ば憔悴のバース、列車の方向を目視する。
「何をしてるのだ!」
列車に飛び込むバース。右往左往するアルマに罵声する。
「タクトを探してるのだ!怒鳴ることはないだろうっ」
「列車内をチョロチョロしても、タクトが見つかる訳ないだろう!」
私の責任だ。私が、タクトを追い詰めさせてしまった―――。
“薄紅の粒”撒き散らし、アルマ、号泣する。
「泣くな、よ。何があったか、教えてくれ」
――ロウスの病の治療法を手助けると、タクトの申し出を、断ってしまった。
「――俺も、同じだ」
バース、アルマを手繰り寄せ、その、髪手串する。
「どんな事にだ?」
俺が、あれこれと、事をおっ始めたものだから、タクト、戸惑いやがってさ。思わず、行動から外すような、言い方をしてしまった。
―――あの、バカチンめ―――。
アルマと列車を降りて、陽が沈む空の下の、薄暗い森林へと、駆けていった。




