幻林間〈1〉
その戦いは、突如始まった。
「おかしい。鍋から《闇》が噴き出してきた」
「アルマさん、それ、ただの焦げの煙です」
「おい!玉葱の本体は何処なんだ」
「タッカさん、剥きすぎてます」
落胆。
「〈食〉とは、まさに〈戦〉だな?」
「俺は、アルマに期待を抱いていた!」
私の得意料理は、お湯を注いで三分待つ食材を使ったものだ。
アルマさん、それ、僕でも作れます。
再び、落胆。
「そもそも、この引き金になったのは、 ロウスが高熱を出して倒れたことが、原因だ!」
アルマ、憔悴の面持ちで、声を震えさせる。
やはり、気になってみれば、この有り様か――。
「ロウスさん、駄目でよ!ちゃんと安静にしててください」
顔面蒼白、額に冷却シートを貼り、肩で息を吐くロウス。足元つまずき、その身体をタクトの両腕に滑り込ませていく。
「うわっ!焼けるように熱いですよ?」
「もうすぐ、昼食の時間だ。のんびりと、休んでられ、る……か」
ロウス、背中を丸め、激しく咳をする。
――タッカさん、ロウスさんを部屋に連れていきましょう!
「ロウスの飯。もとい〈食〉がこれ程貴重なものだというのは、つくづく、身に染みるものだ」
通信室の座席に腰を下ろし、背もたれに前身を押しあて、腕を絡めた上から顎を乗せるバース、悲痛な面持ちをさせる。
「高熱の原因は、私とハケンラットで、調べてみる」
「ああ、頼んだぞ。アルマ」
問題は、ロウスが回復するまで、どのように、食事の用意をすればよいか、だぞ?
そうですよね、タッカさん。僕達隊員だけなら、適当に食べることもできるでしょうけど、ね。
「アニキ、あの手でいかないか?」
バンド、顎を突きだし、車窓を見る。
「お、その手だな!」
マシュ、あの、森林地帯に今すぐ停車させろ!
通信を終わらせ、バース鼻唄混じりをさせる。
「バースさん、急に愉しそうになっちゃった」
呆然としてるタクトに、バンドが口を開く。
〈林間学校〉だ、タクト。
緑が一面に広がる大地。そして、空高く聳える山岳。その狭間で穏やかに水面を揺らし、流れる川。
紅い列車、停車して、乗降口よりバース、歓喜の声あげ飛び出していった。




