光なしの大地
列車は駆けていた。
かつて、溢れる自然を彷彿させる風景が、車窓より、目に映る。
しかし、それは、ある場所を通過したところで一変した。
「隊長!外部との通信が、不能になった」
通信室で、バースは、タイマンから、そんな報告を受ける。
「通信機の故障ではないのか!ニケメズロ」
「それは、ありません。ただ言えるのは――」
タイマンから、受話器を受け取り、耳に押し当てる。
バース、瞬時に険相する。
「何だよ?この、妙な声は!」
「こちらからの応答がなくて、ずっと、こうなんだ」
――アノチニカエリタイ―――。
「音声をリバースさせてるのか?」
これでは、本部との連絡が取れない!タイマン。こいつの発信源を特定するのだ!
「それも、やってみたが――」
タイマン、音量レバーを最大にさせる。
「――――。やかましいから、よせ」
バース、両耳を塞ぎ、歯を剥き出して、更に顎をつきだす。
大将!お外の植物さんたちがいなくなったーっ!
扉が開くと同時に、ザンルがそう、叫びながら、入室 してきた。
「こっちも、何を騒々しくさせてるのだ!」
「大将ノいじめっこ!ワタシ、これでは“力”が使えないワ」
バース、渋渋と、通路に脚を運び、車窓の景色を目視する。
「もう、日が暮れたのか?」
「ちがう、ちがうのーっ。すっぽりと、黒い煙がいきなり、降りてきちゃったの!」
馬鹿野郎っ!こいつは《闇》だ。ザンル、9両目に行って、窓が閉まってるか確認してこいっ!
バース、激昂し、ザンル、身体を一度硬直させると、駿足させて移動していく。
「隊長、後は俺とニケメズロで対応する」
あれから、ろくに休息してないだろう?いいから、してこい。
「ああ、頼むぞ、タイマン」
額に大量の汗、大きく吐く息。 そして、業を煮やす形相をさせながら、個室の扉を開く。
ベッドに飛び込むように、身体を横にさせ、またひとつ、息を吐く。
「本当に、ことがさっくりと進まないな!」
一人言、室内に木霊する。
―――バース、入るぞ。
「おう、よく、ここに居ると判ったな?」
「私も休憩していいと、タクトの言葉に甘えた」
アルマ、ベッドに腰を下ろし、大の字になるバースの右手を掴む。
「――。随分冷えてるな?」
アルマの手の感触に、バースはそう、言った。
「元から冷え症だ」
「寒いなら―――」
いっちいち、触るな!
アルマ、バースの顔面を拳で押し込み、立ち上がる。
「待てよ。来たばかりで、もう、いっちまうのかよぉう」
――休憩は、終わった。任務にもどらせてもらうっ!
扉、閉まり、残るバース。
「あんまりだ。絶対、あんまりだ」
―――バースさん、入っちゃいますよぉ。
「俺、休憩中」
「いつになく、ふて腐れてますね?」
タクト、苦笑しながら、バースに個体をひとつ、差し出す。
バースの形相、瞬時に険しくなる。
「何処で見つけた?」
「ユキミの肩にくっついていたのです」
「休憩、終わった。そいつをザンルに調べさせる」
調査室。顕微鏡、アルコールランプ、そして、物質を測定する機材が陳列棚に、ところ狭しと、置かれていた。
「これ、一見すると、植物の種に見えるけどぉ」
タクトくん、触って何ともなかった?
え?ええ、いたってぴんびんしてますけど。
「よかった」
ザンル、安堵。
大将、これ、焙ってなかの芯を取ってくれる?
―――。何、甘ったれてるんだ?おまえの普段の馬鹿な握力でも、十分だろ!
「ノンノン!大将の“力”でないと、ムリなのぉ」
バース、渋渋と、透明なケースに入る個体に手をかざして“橙の光”を解き放つ。
何ですか?この、鼻が曲がるほどの異臭は!
ザンル、タクトにはこの、臭い不評だぞ。
茶碗蒸しには、付き物だけど、残念!
「いい焦げ加減だけど、ね。食べ物じゃないのよ!」
ザンル、その灰をピンセットで掻き分け、摘まみあげる。
〈卵〉よ。かっちこちの殼で外敵の目を眩まして、中でこっそり孵化するの。
「大将の“力”でノックアウトされたから、大きくはならないけど―――」
「良い〈生き物〉では、ないのだな?」
ザンル、無言で頷く。
「バースさん【国】を此のまま目指して、僕達、無事にたどり着けるのでしょうか?」
「突破するしかないだろう。な」
〈扉〉で境界線を引いていたのは【国】の民 と?
其処まで見解はできない。
―――母さんは、どうして【其処】に行くことになったのですか?
「タクト、言い方は酷だろうが、まずは、辿り着くことだけを考えて貰えないか?」
「それは、構いません」
――何もかも、重なってる。あまりにも――だ。
バース、その言葉を吐くと同時に、身体を脱力させる。
「バースさん?」
タクト、バースの頬に手を押しあて、瞬時に驚愕する。
「ザンルさん。バースさん、物凄く冷たいです」
「なんですってーっ?ヤダヤダ、アルマちゃんにぶっ飛ばされてしまうーっ!」
「そっちを心配する前に、バースさんを何とかしてあげないと!」
―――バースさん!起きてください。
タクト、バースの微動しない身体をひたすら揺すぶる。
その背後で、駆けつけるアルマの絶叫、室内に木霊する。




