その先、駆ける
曇りですよ、アルマさん。
つくづく、おまえというやつは――。
何ですか?言い掛けて引っ込めるなんて、嫌ですよ。
いい加減、私をこまらせるな!
その言葉、そのまま返します。
「朝っぱらから、何をケンケン言い合ってるのだよ?」
「何だ?その、寝癖かどうか分からない髪の形は!」
アルマ、険相でバースを見る。
「寝坊、したもんだから、髪のセットまで手が回らなかった」
「その、様子だと、洗顔もしてないだろう?」
「バレた?」
すぐ、洗ってこいっ!
左足を軸にアルマの回し蹴り、バースの右脇腹に命中する。
その衝撃受けて、バース、左半身より車両通路の床に転倒。
「手加減しろ、よ」
悲痛な形相のバース、その目に涙。
「なん、てや?」
「アルマさん。ハケンラットさんの国なまりです」
せからしかっ!タクト。
秋の訪れを思わせる紅葉深い、谷間を走る列車。
騒々しさが、耳を裂いていた。
通信室に、隊員は集う。
バース、議席の中心。その両隣に、アルマとタクト、着席する。
「朝からご苦労だ」
バース、穏やかな眼差し向け、言葉、静かに紡ぐ。
注目。
「ここ、数日の護送列車の出来事は、アルマとタクトから報告を受けている。よく、やってくれた!」
隊員、安堵の面持ち。
「ハケンラット、タイマンの容態はどうだ?」
「心配せんでよか。脚の骨折以外は、ピンピンしとるばい!今朝も飯ば、ひこけて食いよった」
「そうか」
バース、微笑み返し。
「おい、バース。早く話しを聞かせてくれ!」
「タッカ。若い娘達の相手、さぞかし、充実していただろう?」
『おじさん』を連発されていましたっけ?
タクトの言葉、爆笑の渦。
「余計な事を言うな!」
タッカ、バースと目を合わせ“同調の力”を発動させる。
――《虫》が、いた。
――何だと?
――間違いなく〈軍〉も絡んでいる。
――俺達の行動を監視してる、と?
――恐れているんだよ〈子供の“力”〉に、な!
―――上等だ!――――。
バース、眼差し光らせ、姿勢を正す。
「お前達に、是非、言おう」
【ヒノサククニ】其処が、子供たちが、最終的にたどり着く〈場所〉だ ――――。
静寂。
「《陽》が咲く。つまり《太陽》が真っ先に昇る【国】が、何処かにある。何の目的かは、護衛する子供に関係している!」
「“力”の〈育成〉それが《団体》の狙い、だ」
ロウスの言葉、バース、怪訝になる。
「その、情報。俺、知らないぞ?」
ロウス、身体を硬直にさせる。
「憶測だ。そんなことより、おまえ達のここ数日の足取りを聴かせてくれ!」
凝視。バースの険相を、ロウス、跳ね返す。
「――。たった今、ロウスが発言した《団体》についてだ。エネルギー事業を手掛けているのも、知っているだろう?其処も、絡んでいる!」
――センダ坑遺跡。かつて、其処では〈資源〉が 掘り起こされていた。《石炭》という、もので大昔は暮らしの一部として、活用されていた。しかし〈資源〉も 限りは来る。とって代わるもの、それは――。
「《太陽》あの、空に浮く、無限のエネルギーをいかに、採取するかと、試行錯誤を繰り返す【 ヒノサククニ】は、まさにその発祥の地と、突き止める事が出来た」
隊員一同、無言。
「バース、おまえはその為に、それを探る為に自ら列車を降りたのか?」
アルマ、声を震わせ、バースに訊く。
「一応、な」
「何だ?その、あやふやな表現は!」
「怒るな、アルマ」と、バースは言う。
「此処までの、話しを統括させよう。俺達の任務は、重ねて言うが〈子供〉の護衛。護送先に着けばその先は見れない」
――タクト、おまえは《その先》を目指したいと、提案したのだよな?俺も、同意する――。
「バースさん?」
「何を鳩が豆鉄砲を喰らったような顔している?とことん、行着くことする!おまえくらいのトシの連中にはあって当たり前だ」
いいな!これは俺達も必要な《志》だ。見つけにいこうではないか?
バースの声、通信室に木霊する。
一人、また一人と、隊員は立ち上がる。
拍手喝采。
「行くぞ。タクト、アルマ」
バースの微笑み、双方、それを返す。
―――陽の光、目指すぞ!
※追記 〈陽光隊〉と、部隊名を変更する。
議事録の最後に、そう、記されていた。