チハココカラ〈6〉
よしてくださいっ!着替えぐらい、ちゃんと、できますっ。
何べんも同じ事を言わせるなっ!《闇》が抜けてまっても、すぐには〈体力〉は元にもどらないっ!
バースさん!笑ってないで、アルマさんを止めてよーっ。
「〈かぁちゃん〉に叱られるから、遠慮する」
バースは、そう言って、タクトの個室を出ていった。
「隊長」と、掛ける声に振り向く。
「おう、タイマン。自室で過ごすのに、飽きたのか?」
「いえ、足の傷みが無いから、ハケンラットに診て貰おうかと」
凝視。
――確かに歩いている。
「治っとる、ばいた」
タイマンの、ギプスで固められてる、左脚に掌をかざしながら、ハケンラットは言った。
呆然。
「外科は“力”は使えなかったのだろう?」
「使わんかった、と。人の持つ〈自然治癒力〉の、ほうが、ようなりがよかと!」
あれ、どこあったかいな?
何を探してる?
だんなの“力”では、タイマンが焦げつくけん、あっで、きってやっと。
「あった!だんな、それ、ばいた」
瞳を輝かせ、バースより〈それ〉を受けとる。
キンキンと、刃が回転する音が、室内に、響き渡る。
切るなよ。
心配せんではいよ。
――痛いぞ。
脚の筋に沿って、垂直に切り落とされた、ギプスより、まっすぐとした切り傷が、表れた。
「バース、あの《天女》が呼んでるぞ」
「どの辺りが《それ》か、俺には理解できない」
タッカ。咳払いをひとつ、する。
「再戦、だな?」
食堂車。バースは、席に座る、女性に険相する。
発想が、面白い方ですね?
そうやって、話を誤魔化すのは、もう、通じないぞ!
「それでは、本題に入らせて貰います」
「まずは、自己紹介だ!」
間を置き、女性は、口を開き始める。
「エターナ=アントルと、申します。うすうすと、お気づきになられてると、思いますが、二点、ご説明を致します」
もうすぐ、子供たちの夕食の時間になる。
せっかちですね?
――。あんた、すかん。
「ひとつ目は〈育成プロジェクト〉の主催責任者。もうひとつは―――」
――待つのだ!シーサ。
――いやっ!
食堂車の外で、ロウスと、子供の言い争う声。
「どうした?さっさと、続けろ」
気にする様子なく、バース、威嚇するように、その言葉を口にする。
更に、外では、押し問答状態の双方に、アルマ、加わる。
――何事だ?
――いえ、まだ、晩御飯には早いと、この子に――。
ちがうーっ!だって―――。
―――おかあさんが、いるもんっ!――――
「バース、さん。私、少しばかり、体調が――」
「白々しい、嘘つかなくても、いいっ!」
―――行ってこい――――。
エターナ、席から立ち上がり、瞳、潤ませ、バースに深々と、頭を下げる。
―――シーサ、ごめんなさいっ!
車両の扉を開き、泣きじゃくるシーサを両手で挟み、包み込む。
「俺の前では、しれっ、とした態度してたくせに、君を見たとたん、我慢の限界が、突破したみたいだ 」
苦笑のロウス。前髪、右手で握りしめる。
―――あなた。
後ろのバース、鼻のてっぺんに、爪をたて
「バカちん一家めっ!」と、声をか細くさせ、その家族めがけて、剥けていった。