チハココカラ〈5〉
自由。
俺も、そうだった。
同期の奴等は、出世をかなり意識していた。
その為には、組織に、付く。
媚びて、おだてて、機嫌をとる。
運よく、乗れたらいいが、大半は振り落とされた。
俺と師匠は繋がってる。連中はこぞって噂し、俺をののしまくった。
ばーろーっ!
その都度、連中とやり合った。
足の引っ張りあいと、潰しあい。そんな訳で、その頃の〈軍〉内部は、荒んでいた。
出世の為に〈軍人〉になったのではない。
《英雄》を近くで、見たかった。
群雄割拠を連日連夜、テレビのディスプレイ越しに映す《英雄》に、近づきたかった。
――それで、十分だった―――
「この子に、あなたが《自由に生きてほしい》と?」
「はい――――」
―――。ふうぅう。
タクト、胸を押さえ、息を詰まらせる。
「《闇の矢》の“力”を一時的に、おまえは抑えていただけ。先程から、この様な状態だ」
アルマ、タクトの背中を擦りながら、女性に険相を剥ける。
「取り除いた“力”は、二度と使うことは、出来ません。ただし“習得した力”は残ります」
「あんた、その娘の“力”よく、見抜けたな?」
「―――。バースさん、あなたには、一切の誤魔化しが、利かないようですね?」
「親父が、学者と探偵の二足のわらじ履いてる。その、影響だ」
「もう一人の〈おとうさま〉の存在も大きそうですね?」
「人をほじくって、楽しいか?」
シーサの“習得の力”を抜く前に、ひとつ、お願いが、あります。
「タクト。無理して、会話をするのでは、ない」
「タッカさん………と、ア、ル――マ、さんの“力”を、シーサに、あげ、て――――」
タクトッ!タクト、タクト、タクト!
「―――。シーサ、こっちにきなさい!バース、タッカを急いで呼んでくれ」
――了解。
本来なら、アルマがする役目は〈あいつ〉だ。
《母親》の代わりと、表現は、出来ない。
――俺がいないあいだ、アルマはタクトに、そんな感情を抱いてしまった。
否定は、しない。
何故なら、俺にとってもタクトは―――。
「〈息子〉に甘いのは、両親揃ってが、多いものだ。ぞ、と」
さっさと、シーサに“力”をくれてやれっ!
「はい、はい、と。どれ、小さなレディよ。俺の手をとってくれたまえ!」
〈おじちゃん〉のてをにぎるの?
―――。せめて〈おじさま〉と、呼びたまえ―――。
アルマとタッカ。幼子の手を握り“光”を注ぎ込む。
女性、その、額に掌を押しあてる。
「お二人の“力”習得しました」
アルマ――さん。この子の“力”を抜き取って、バースさんと《闇の矢》を、消してくたさい。
「二人で、か?」 と、バースは怪訝な形相をする。
「時間が、ありません。早くっ!」
《闇》の“力”が、思った以上に強大だった。あの〈処置〉がなかったら、タクトさん、は―――。
「命を落とすことは、ないが〈あの方〉のように、完全に《闇》に染まっていた。バースッ!タクトを、支えて!」
タクト。もうちっと、堪えとけ〈かぁちゃん〉と、助けてやるからな!
だ、れ、デスカ?〈その人〉
待たせた、タクト。おい〈親父〉その《闇》に掌を乗せろ!
それだけか?
ぐずぐず、するな!
――――今、私たちの〈絆〉を、あなたに、分ける―――。
二人の手、深く絡み“光”《闇》を砕く。室内、眩い虹色に染まる。
薄紅の粒、飛んで、舞う。
虹が溶け、三人、身体を寄せあい、それぞれの目に涙。
――チハココカラ、いつも、始まるの――――。
アルマ、今の声、聞こえたか?
ああ、とても、懐かしくて、心地よかった。
〈花畑〉には、いない。絶対、会えるぞ!
―――母上―――――。
室内に、夕の陽の光、穏やかに、柔らかく――。
―――三人を、包み込んでいた。