チハココカラ〈1〉
目の前にいるおっさん。俺にとって、最悪な奴だ。
〈軍〉には、幾つか部隊がある。5部隊に一人、まとめ役の指揮官がいる。
その、更に上が、こいつだ。
何でこんなところに?なんて、ツッコミを掛けたいが、そんな余裕、が、ない。
蛇に睨まれた蛙状態。油断したら、あっという間に呑まれてしまう。
師匠よ。アンタ、変わったよ。
かつての英雄の面影が、見当たらない。
一体、何をどうしたら、そんな風になれるのか?その、理由を教えてくれよ――。
「重ねて言う《宝》を引き渡すのだ!」
その者、声を轟かせ、バースに剥ける。
「やなこった!」
「――。相変わらず、ふざけた態度を示しやがる!
幾度、その事でワシを手こずらしたのだ」
「けっ!逆恨みだろ?俺は、上層部に上がりたくない。と、何べんも言ってるだろ!」
「その歳で、階級が上がらないのは、おまえにとっては《恥》をさらしてるようなものだぞ!」
アンタ、が、だろ?
やかましいっ!
その者、瞼を痙攣させ、薄い頭髪に手串する。
「ぶふっ。セットするぼとのボリュームなんて、ないだろう?」
「いい加減にするのだ!」
こんな、天気では《宝》の“力”なんて、発動しないぞ?
―――。今すぐに必要とは、しない。
「いつ、いる?」
「《陽》が 始まる〈時〉だ」
―――なるほど。だから、任務終了時刻を、わざわざ、ハンパな時間にした。
《宝》はまだ、成長期。規則正しい〈習慣〉をさせないと“力”の発達に影響がでる。
《あいつら》は《団体》が選抜した。
〈育力〉に気合いいれる。世の《親》の間では、常識化してる。
倍率は、高かったはずだ。
どんな、気持ちで《あいつら》を送りだしたのだろう?
――アンタら、馬鹿だよ。《我が子》が《道具》にされるなんて、気づかないとはな――。
「マシュ〔紅い風〕を移動させろ」
バースが通信を終えると同時に、武装する隊員が5人、その姿を現す。列車は“光”に包まれ“粒”を解き放しながら、雨の水滴を掻き分け、消える。
「〈対峙〉をえらんだか?」
「そう、出ると、アンタは知っていたはずだ」
バース、ズボンのポケットに右手を挿し込み、拳を、その者に剥ける。
「ほう?《虫》が、よく見えたな」
「《宝》が虫取網で捕まえた。ご丁寧に籠にいれて、飼っていた」
バースの両手で、それは、潰され、黒い塊となる。
「行くぞ!おまえたち」
了解!
其々の“光”空を照らし、雨、降りるのを止める。
地に夕の陽光、朱色に染め上げる。