徐行
列車は闇夜に橙色の光を照らし、発車する。
ルーク=バース。”力”を持つ、子供の護衛任務の責任者。
隊員のタイマンと共に罠を突破する為に、列車を降りた。
其から数日後、再び、列車に乗る。
迎えたのは、弟分のタクト=ハイン。
そして―――。
「アルマ」
バース、その名を呼び、息を耳元に吹き込ませる。
「場を、わきまえろ」
アルマの声色、奏でられ、バースの頬に唇乗せる。
車両の通路の蛍光灯、蒼の光。
「久し振りのロウスの飯、旨かった」
がふりと、胃から押し出される空気。
「早く寝ろっ!」
アルマ、個室の扉を開き、バースを通路に残し、入室。
「 あっちに挨拶させろよ」
この馬鹿野郎!
バース、落胆。
「おーい」
しぶといっ!
再び、落胆。
バース。指折りして、数を取る。
任務開始から、3日目に、例のあれ。其から更に四日が過ぎた。
まだ、そんなものか?
眠気、瞼が重くなる。
どうせなら、アルマを抱き枕にしたい。
自室のベッドに潜り込み、バース、思考をかき回す。
――バース。いつか、この地に風を吹かせて――。
四年前〈あいつ〉は、そう、言い残し、この大地の向こうにある【国】を目指していった。
――扉を開く為には《16》の無垢な光が必要なの。
何だよ?それ。
――《血》を持つ、あのこもまだ、未熟。
もう、ガキじゃない。俺にひっついて【仕事】してるぞ!
――あなたが、守人。
それ、しくじった。
――キオクニミミスマセ、ワラワニチュウセイヲチカエ!
どけよ!〈そいつ〉をどう、するのだ!
――トキヲヒトツニスルタメノ、ドウグ。
〈ヒメカ〉!!!
「はぁ」と、バース、険相。息遣い激しく、全身汗まみれ。
任務離脱のどさくさに、俺は《それ》を探しまくった。
行き着いた所が――センダ坑遺跡。
其処で、タイマンが足を折った。
「こんなもの、宛にしたのがよくなかったな?」
間接照明、バースを照らす。
その影、長方形の個体に紛れ込む。
あの時、落ちていた。と、言うより置かれていた。
「けっ!」バース、舌打ちしながら、それに、指で摘まむ。
〈あいつ〉それは、タクトの母親。
その事実を伏せて〈そいつ〉の息子を俺の部隊に誘い込んだ。
確証なんてない。
あの先は、俺でも行くことができなかった。
今、遂行してる任務、実際の依頼者は《団体の幹部》と、までしか分かってない。
そいつが、男か女か、さえも謎。
罠を仕掛けた《敵》を取っ捕まえることは、無理だった。
任務外の行動は、管轄外。縦割りがっちがちの組織。
必ず、接点は、ある。
軍と団体は、間違いなく繋がっている。
今一度、振り返る。子供の数と、タクトの歳。
そっちしかない。
あれだけ探してなかったのだ。後は、列車をひたすら、走らせる、だけ。
タクト、アルマから聞いたぞ。おまえ『先を見たい』と、言ったのだ、と。
眠気。
まあ、詳しい経緯は明日にでも訊く。
布団で寝るが、やっぱりいいな。
――野宿はさすがに懲りた――――。
かふり、と、欠伸。
バース、入眠。
――バース。
扉をノックする音、耳に入らず。
こつこつと、通路に靴が鳴る。
あれ?まだ、休まれていなかったのですか。
人のこと、言えるか?
鼾、高らかに。バース、寝返りをする。