3話:ついに異世界!
光が収まるといつの間にか草原に立っていた。
「ここが異世界クラドールか。ついに来たようだな。」
少しかっこつけて呟いてみた。特に意味はない。
まずステータスを見てみよう。
名前:アロウ・ロード
年齢:20
レベル:1
種族:人間
職業:異世界人
スキル:
念動力(神特製)
見抜く目(神特製)
アイテム倉庫(神特製)
全言語理解(神特製)
HP:500
筋力:100
体力:100
敏捷:100
魅力:100
運:100
そうそう、スキルの全言語理解は念動力の練習中に新しく神様にもらった。
どうやらクラドールには何種類かの言語があるらしい。
基本的にはクラドール語という言語で通じるが、中には特有の言語を使う者もいるとのことで、どうせならと神様がくれたのだ。
他は変わらず。
さてステータスの確認も終わったことだし、少し歩いてみるか。
所々に木が生えている草原を歩いて行く。
ちょっとスキルを使ってみるか。
カロの木:カロの実をつける。樹齢14年。
目についた木を解析してみた。
他の木も解析したが、どうやらこの辺に生えている木は全部カロの木というらしい。
大体の俺の身長くらいの小さな木だ。
木の周りに落ちている丸いのが実かな。
カロの実:樹齢10年以上のカロの木にできる実。苦くて食べられないが、毒消しの材料になる。
しかしこの目は便利だな。
異世界に来て5分足らずで既に一つ知識が増えたぜ!
カロの実を念動力で手元に運ぶ。
そう、念動力だ。
しゃがむ必要すらない。
手にとった実をアイテム倉庫にしまった。
そうして適当に目についたカロの実や小石を収納しながら30分ほど歩くと、草が途切れ街道についた。
まあ道と言っても砂利道だが。
因みに何故小石を拾ったかというと、これを念動力とばすと兵器に早変わりするから。
神様に教えてもらって、ライフル並の速度で打ち出せるようになった。
おっそろしい武器だぜ。
しばらく進んでいると、少し先に馬車らしきものが見えた。
「おー?ついに第一異世界人発見か?」
馬車なんてテレビでしか見たことないもんな。
テンション上がってきたぜ!
しかし何やら様子がおかしい。
もう少し近づいてみるか。
馬車まで30mほどになった所で状況がわかってきた。
どうやらあの馬車、襲われているようだ。
小汚い格好をした奴らが10人ほど、剣みたいな物を持って馬車の周りを囲んでいる。
対する馬車側は3人ほどが馬車を庇うようにして立っているが、どうやらすでに1人やられたのか倒れているのがいるな。
馬車側の奴は鎧をらしき物を着ているようだが、やはり人数の差か、押されているのだろう。
もうちょい近づいてみるか。
「サム!サム大丈夫か!?くそ!何でこんな場所に盗賊がいるんだよ!」
「ケビン!どうする!?スティーブ!しっかり敵を見てろ!」
「だっ、だってよマイケル!俺、盗賊なんて初めてで、怖いんだよ!簡単な護衛だっていうから来たんだ!こんなん話が違う!」
「馬鹿野郎!今はそんな事言ってる場合じゃ、あっ!おい!スティーブ!待て!!クソっ!ケビン!スティーブが逃げ出しやがった!」
「何っ!?畜生!止むを得ん!!マイケル!逃げるぞ!」
「ケ、ケビン本気か!?クエストを放り出して逃げたりなんかしたらっ」
「わかってるよ!でも命あっての物種だろ!俺たちじゃ勝てない!」
「でも、サムはどうするんだよ!?」
「どうせ俺たちが逃げたら商人一家もサムも殺されんだ!ほっとけ!行くぞ!」
「あっ!ケビン!!クソっ!」
この間1分少々。
なんとまあ衝撃的な場面に遭遇したようだ。
おさらいしてみよう。
どうやらあの4人はこの馬車の護衛として雇われたらしい。
で、盗賊に遭遇した。
サムと呼ばれた男が何らかの理由で倒れ、スティーブと呼ばれたひ弱そうな男か走って逃げて、ケビンも逃げようとマイケルに提案。
マイケルは渋りながらも最終的にはその提案に乗って逃走。
そして現場には馬車の隣に立っている顔面蒼白になった馬車の持ち主らしき男性。
ニヤついた気持ち悪い笑みを顔に貼り付け、馬車に近づく盗賊10人。
生きているのか死んでいるのかわからない倒れたサム。
その様子を草むらの陰から眺める俺。
因みに3人は俺がいる馬車後方ではなく馬車の進行方向へ逃げたようだ。
盗賊達は逃げた奴らには興味がないらしい。
「あーあ、商人さんよ。護衛が逃げちまったなぁ。可哀想に。確かルータムルから来たんだよな?んでかわいい娘と嫁がその中にいるんだろ?ちょっと見せてくれよ?」
「なっ!?なぜ!?誰が…」
盗賊の中の体の大きいヒゲもじゃが言った。
こいつが1番強そうだな。
俺はヒゲもじゃに集中する。
名前:ヒーゲ
年齢:41
レベル:16
種族:人間
職業:盗賊頭
スキル:
短剣術
スリ
HP:130
筋力:18
体力:20
敏捷:9
魅力:3
運:3
どうやらこいつがボスらしい。
てか、名前…いいの?
あっ、名前がこれだからヒゲもじゃなのか?
他の盗賊はどいつも似たようなステータスで、しかも弱い。
スキルはスリくらいだな。
ヒゲもじゃは馬車のすぐそばまで来た。
「あぁ、何で俺がそんなこと知ってるか気になるよなぁ?だが、どうせここで死ぬんだ。知っても意味ないだろ?安心しろ!嫁と娘は俺たちが引き取ってやるからよ!」
そう言いながら、ヒゲもじゃが商人に向かって剣を振りおろした。が、
「あ?な、なんだっ!?剣が動かねぇ!どうなってやがるっ!!」
振り下ろされた剣は商人の目の前で止まった。
もちろん、俺の念動力です!
そのままヒゲもじゃを徐々に浮かせていく。
「浮いてる!?な、何でだ!?おい、お前ら!どうにかしろ!!」
「か、頭!?一体どういうことですか!?ってうわっ!俺も、体がっ」
残りの盗賊達もまとめて浮上させてやった。
地上5mくらいで一旦止める。
さっきまでの笑みが嘘の様に、今は口々に戸惑いや驚きの言葉を叫んでいる。
俺は草むらのから出ると呆然として上を見上げている商人に近づいた。
「大丈夫ですか?盗賊達に襲われていたようですが。」
急に声をかけたので一瞬ビクッとした商人がこちらに目を向けた。
名前:ジョセフ・コースト
年齢:38
レベル:5
種族:人間
職業:商人
スキル:
目利き
交渉
計算
パラメータは普通だったのでカット。
しかしまさに商人なスキルを持つ商人だな。天職というやつか。
「えっ?あ、いや大丈夫ですが、斬られると思ったら急に浮かんで、え?あの、あなたは?一体何が…」
どうやらかなり混乱しているようだ。
まぁ無理もないか。
すると馬車の扉が開いて中から女性が顔を出した。
「あ、あなた?大丈夫なんですか?盗賊は?」
「イリーナ…。私にもわからないんだよ。死ぬと思ったら急に奴らが浮かんでいったんだ。ほら。」
そういいながらジョセフさんは空中に浮かんでジタバタもがいている盗賊を指差した。
「まぁ!何ですかあれは?浮かんでいる?もう安心なのですか?リリーがいるのにこんな事になるなんて…。それにそちらの方は?まさか盗賊!?」
「い、いや私にもよくわからないが、一味ではないようだ。あの、失礼ですがあなたは?」
改めてジョセフさんが俺に聞いてきた。
よし、そろそろこの混沌とした状況を収めるとしよう。
「あぁ、すみません。私は旅の者でアロウと言います。馬車が襲われていたようなので手助けしたんです。あの盗賊共は私が浮かせていますのでご安心ください。しかし、ちょっとうるさいですね。もう少し上に上げておきますか。」
俺は奴らをさらに50m程一気に浮上させた。
武器は降ってきたら危ないので奪って一箇所にまとめておく。
この距離なら奴らの叫び声も聞こえないな。
「これで落ち着いて話せますね。では改めて。私はアロウ・ロード。しがない旅人です」
今更だが俺は自分を旅人とすることにした。
これなら知らない事を聞いても誤魔化せるだろうし。
相変わらず空を見て呆然としていた商人夫妻だが、俺が挨拶したのに気付き、こちらを向いた。
「あ、す、すみません。ちょっと混乱していまして。私ルータムルで商人をしております、ジョセフ・コースト。こっちは妻のイリーナです。」
「イリーナ・コーストです。この度は危ない所を助けていただき、有難うございます。アロウ様がおられなかったら私たちはどうなっていたことか…。感謝してもしきれません。」
どうやら妻のイリーナさんのほうが先に混乱が治まったようだ。
イリーナさんが俺にお礼を言うのを聞いたジョセフさんがハッとしたように
「そ、そうでした!もう駄目かと思った所を助けていただきまして!アロウ様は命の恩人です!有難うございました!」
俺としては簡単な作業だったが、こうして感謝されるとたまには人助けもいいもんだな。
そんなことを考えていると
「パパ?ママ?大丈夫?」
馬車から女の子がでてきた。
彼女が娘さんのリリーかな。
「あ、リリー!ごめんなさい。もう大丈夫よ。悪い人たちはこのアロウ様がやっつけてくださったから。さぁ、あなたもお礼を言ってね。アロウ様、娘のリリーです。」
そう言ってイリーナさんが女の子を少し前に出した。
「え、えっと、リリー・コーストです!パパとママと私を助けてくれてありがとうございましたっ!」
うん。いいね。かわいい。
いやロリコンとかじゃなくてね?純粋にかわいいってことだからね。
ジョセフさんは金髪のさわやかイケメンでイリーナさんは茶色い髪で美人だ。
リリーちゃんは2人のいいところを受け継いでいるね。
綺麗な金色の髪を2つにくくっている。
その後少し話をしてジョセフさん38、イリーナさんは32、リリーちゃんは10歳だとか、ルータムルの街からサマリーの街に行く途中だとか色々聞いた。
まぁ、年齢はステータス覗いたから知ってたけど、まさか知ってるなんて言えないからね。
あとリリーちゃんは魅力が25もあった。
どうりで可愛い訳だ。
「アロウ様、よろしければサマリーまでご一緒してくださいませんか?勿論お礼は先程の件も含めてさせていただきます。」
しばらく話をしていたら、ジョセフさんが提案してきた。
まぁ俺としては目的がある訳でもないし、別にいいかな。
因み様付けだが、悪い気はしないので俺からは時に訂正するつもりはない。
「はい、構いませんよ。私もサマリーには行ってみたかったので。」
さっき初めて知ったけどな!
「本当ですか!?いやーよかった!助かります!アロウ様ほどの方が一緒なら安心です!それにリリーも嬉しそうだ。な、リリー?」
「え、あ、うん…。私もアロウ様が一緒なら嬉しいです…。」
指先を合わせながら上目遣いでこっちを見る美少女。
え?もうフラグ立った?まだ数える位しか話してないのに…。
これが魅力100の力か?
恐ろしいぜ。
窮地に現れたのも影響してるのかもしれん。
そういやさっきからこっちを見るイリーナさんの眼差しにも熱を感じるような…。
いや、あんた旦那いるでしょ!
「では、出発します。」
それから盗賊達から奪った武器を積んだりして準備を整えたジョセフさんが声をかけてきた。
俺は馬車の中、ではなく屋根に座っている。
リリーは是非一緒に座りましょうと言っていたけど、狭い空間に女2人と俺1人は少しハードルがさ?高くはないけどね?決して高いとかじゃないんだけど、ほら、俺外好きだし?異世界の景色を楽しまないとさ?うん。
景色を楽しむとしよう。
そして馬車から前方を見る。ん?誰か倒れて…あっ!
あれサムじゃね?すっかり忘れてたよ!
しかし誰も気づかなかったとは。
そんなに離れて無いのにな。
「ジョセフさんちょっと待ってください!護衛をしていた残りの1人がまだいました!」
俺は屋根から降りてサムに歩み寄った。
そもそも生きてんのかこれ。
「この人は?」
俺の後ろからジョセフさんが声をかけてきた。
あんた完全に忘れてるな!
「ほら、ジョセフさんが雇った護衛の1人ですよ。3人逃げだした所は私も見ました。最初に倒れた人でしょう。」
「あぁ、あのカス共の1人ですか。いきなり現れた盗賊に腰を抜かして倒れて頭を打った役立たずですね。」
ジョセフさんは護衛達に非常に悪い心象をお持ちのようです。
戦いもせず見捨てて逃げたんだからそりゃそうか。
しかしサム。。。
盗賊にやられた訳じゃなかったのか。
腰を抜かして気絶して、その上見捨てられるとか…。
「どうします?ほっときますか?それがいいですよね?
草原の牙とかいう偉そうな名前のクランでしたが、まさかあそこまで役に立たないとは!あぁ!思い出したら腹が立ってきました!」
「草原の牙?」
「ええ。ルータムルで護衛を募集した時に俺たちにまかせとけとか偉そうに言ってたんです。まあ長い道のりでもないんで最低限の仕事はするかと思ったんですが、失敗でした。」
なるほど。クランというのはチームみたいなもんか。
ケビン、マイケル、スティーブ、サムの四人で草原の牙というらしい。
「しかし、奴らは護衛放棄しました。ギルドに報告すればクランは解散、冒険者資格剥奪は間違いないでしょう。それを思えば溜飲も多少下がります。」
また気になる単語がでてきたぞ。
まぁ今はいいか。
サマリーの道中にでもそれとなく聞くことにしよう。
それよりサムだよ。どうするかな。
ジョセフさんはほっときたいようだ。
仮に起こしたとして、コースト一家と俺とサムでサマリーまで行くのか。
ちょっとサムのステータス見てみる。
名前:サム
年齢:27
レベル:6
種族:人間
職業:農民
スキル:
農作業
サム…。なんで大人しく農業をしとかなかったんだ。
あれか?こんな生活いやだ!とか言って村を飛び出したのか?
因みにパラメータは普通だった。
よし。ほっとこう。だってなんか面倒だもん。
「ほっておきましょうか。死んではいないようですから、そのうち自分で目を覚ますでしょう。」
「はい!そうしましょう!では改めて出発します!」
俺とジョセフさんは馬車に戻るとサムをよけながら街道を進んで行った。
サマリーまでは半日ほどでつくらしい。
まだ日は高いので夕方には着くでしょうとのことだ。
馬車の中の2人は疲れていたのかいつの間にか眠っていたのでサムに気付くことはなかった。
俺が空高く上げた盗賊達の事を思い出したのはそれから少したっての事だった。
「ジョセフさん。そういえば盗賊達のこと、すっかり忘れてましたよ。」
「あっ、そういえばそうでしたね。でも少し離れてしまいましたけど、落ちたりしてないんですか?」
「それは大丈夫です。私が意識してやめない限り、奴らは浮いたままです。」
これも神様印の念動力の便利な所だ。
1度浮かせたりすると、下ろそうと思わなければ例え俺が寝たりしても浮いたままになる。
しかもどんなに離れても有効ときてる。
勿論この世界にあるらしい一般的な念動力ではそんなことは無理だが。
少し意識すれば今自分が何に念動力をかけているかも分かる。
「盗賊とかを引き渡す所とかありますかね?そこまで浮かせたまま運べますけど。」
「そんな芸当まで可能とは!流石アロウ様です。サマリーには確か兵士の詰所がありましたので、そこに連れて行きましょう。私も奴らに聞きたいことがありますので」
そういえばヒゲもじゃが何か言ってたな。
あいつらはジョセフさんを狙ってたらしいし。
盗賊共にはもうしばらく空の旅を楽しんでもらうことにしよう。