夕日
日がゆっくりと傾いていき、部屋を温かみのあるオレンジ色に染め上げる。
熱くもなく、寒くもないこの時期にその夕焼け色はぴったりに思えた。眩しくもなく、暗くもない。綺麗なグラデーション。
女の子らしい家具の多い可愛らしい部屋を彩る夕焼け色。思わず見惚れるほどの光景だ。
俺は隣を横目で伺った。彼女も同じ夕焼け色に染まった空間を見てるんじゃないか?そう思って。
しかし現実は甘くない。彼女は携帯をいじっていた。携帯をいじる彼女の横顔は冷たくて、悲しくなった。同時に不安になった。今彼女は携帯で他の男とメールしているのではないか。俺と喋るより楽しいと感じてるのではないか。女の子であったとしても少し嫌だ。
今は俺のことを考えてほしいというのは少し女子っぽいか。それでも、こっちを向いて欲しくて握っていた手を少し動かした。口で言えばいいのに回りくどい事をするのは最早癖と言っていいだろう。
そう言えば先に手を握ってきたのは彼女だ。頃合いなんて計ってたから先を越された。なんでも彼女からで、このデートだって彼女からの提案だった。ほとほと呆れる。次こそは俺から誘うんだ。全部彼女任せだなんてかっこ悪い。
少し時間をおいて彼女は携帯から顔を上げ、こちらを見つめてきた。
何か言わないと、そう考えているうちに彼女の方が口を開いた。
「ねえ、翼があったらどこに行きたい?」
お前の所に。
正直にそう思った。しかし今彼女は目の前にいるわけだし、行きたい場所とは違う気がする。
「えっ?なんで?」
考え込んだ挙句無難に聞き返した。
「心理テストなの」
彼女がメールをしていなかったと分かってホッとしたが、答えなくてはいけない事には変わりない。迷いながら顔を上げて、見事な夕焼けが見えた。
「た、太陽?」
咄嗟にそう答えていた。
「やけちゃうね」
彼女はそう言って微笑んだ。
ああ、俺はこの笑顔に惚れたんだ。
彼女の部屋は大きい窓があって日が綺麗に差し込むんだ。