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人霧

作者: 嫁田嫁

時は何時か、何故にここに至るか。

飛行船は光もない黒い世界に、浮遊していた。

私はその飛行船のレストランで食事をしている。白いテーブルの上には

目の前には小さな多少分厚めの肉の前で綺麗な気品漂う大きな茶色の椅子に座っていた。

どうも、私にとっては大きいものであった。

そんな気品漂う場所には、私以外の人間は誰も存在はしていない。

いるとすれば、『人の形をした霧のようなもの』といったところか。

その霧は50人以上いるんじゃないかと思われた。

でも、もっと多くの人がこの飛行船には乗っている。

私はその霧を人霧と呼ぶことにした、霧と言っては少しややこしい。

その人霧は、人のように振る舞っている。

人霧はワインを運び。または、食事を運び。

または、机に座り、食している姿を私は呆然と見ていた。

私の目の前には白いテーブルに置かれた、若干黄色く透き通るスープが白く丸い皿の中にあった。

一体ここはどこだと状況を確かめるように

首をゆっくりと180度に回して大きなフロアを見渡した。

白い綺麗な丸い机がいくつもあり、見渡すほどの大きなレストラン。

そこらじゅうに人霧が動いている。

周りを見渡していると、「どうしたの?」と人の声が聞こえたものだから

私以外に人がいるのかと、すぐ椅子から降り、走り去った。

その声はどこからやってくるのかはわからなかったが

小さな体の私は大きく白いシンプルな扉に

肩を前にして体当たりする勢いで扉に当たり。

そのフロアを出た。力を込めて当たったものだから

少し肩が痛んだが、多少広い長い廊下が左右に続いていた。

どちらに行こうか迷って、左右を見た。

右は進めば進むほど暗くなっていることがわかった。

左は天井のライトが点々とあり、道を明るく照らしていたが、どうも人霧が多かった。

どちらに行こうか迷っているうちに

後ろから扉が開く音が重く聞こえ、そこで後ろを振り返ると

大きな人霧が立っていることに気づくや否や

驚いて右の通路へと走って行ってしまったのだ。

人霧に何かしらの恐怖を反射的に感じたのか、胸の鼓動が激しく、足音と共に鳴り

そんなに夢中に走っていたものだから、真っ暗な視界の中にいると自覚した瞬間

胸の鼓動は鳴りながらも、足音をフェードアウトするように、小さくなり

足を静かに止めた。いつの間にか暗い地下室に迷い込んでしまったころに気付くと

今すぐにでも叫びたいという恐怖心が沸き上がっていた。

私は右も左も、どこがどうなっているのかわからずじまいな状況で、仕方なくしゃがんで手で床を確かめる。

ひんやりとした冷たさが手の平に感じるが、そんなことを気にするほど。

私はそんなに冷静ではなかった。

右手を前にだし、そしてまた左手を前にだしと

足を引きずりながら暗闇の中で進んでいく。

せめて壁らしきものはないかと、手探りで状況を知りたかったが、永遠に続くかと思うが如く

進んでも、また進んでも、壁らしきものにはぶつからない。

その代り、手に疲れを感じた頃、暗闇の中小さな光が点灯していた。

「助かった」と希望が急に湧き上がると同時に、私は足を上げ、体を上げ

さっきまでの疲れを感じないほどに光の方向へ走り

その光は進むにつれて大きくなり、その光は遠くのドアの小窓から漏れている光だと知った。

私は喜びの勢いで、ドアの前に立ち、ドアノブに向かって片手を伸ばしてしっかりとつかんだ。

ドアノブは鉄が錆びた音を回すように嫌な音を立てる。しかし、今の私にとってはそんなことは

どうでもよかった。回した後

体重を後ろに乗せてドアを引っ張って開けた。

そこにはどうも血なまぐさい血の跡が壁に散っていたり

笑ったり、怒ったり泣いたり、もしくは死んでいる人も多くいた。

私以外の人間はここにいたが、それはとても喜ばしいことでもなく。

人霧よりもっとも恐ろしいもので、私は目を丸くして、また後ろの方向へと逃げ出した。

逃げ出すとまた光が差し込んでいた。それは別に明るい光でもなく、灰色の光が前に差し込んでいた。

その光は別に遠くはなかった。その光はあのドアと同じく、小窓から光が漏れていたが、

さっきまでの場面を思い出すと手が重く感じて、ドアノブに手を伸ばそうとはしなかった。

呆然としていると「あそこにいるわ」とどこからか声がしたものだから、光でまだ床が見える

後ろの方向へと体を向けた。そこには人霧がいて、私の体に手の形をした霧が私の脇の下をつかみ

持ち上げられ、その人霧に抱っこされる形になった。

顔と思われる部分に私の顔が密着していた。それは霧のようななにもない感触ではなく。

肌の感触が私の頬に伝わった。薄らだったが、その霧の奥には、自分の母親の顔があった気もする。

嘘をつくことも隠すことも知らない幼かった頃の私はその母の顔を夢見ながら霧の中で眠っていった……

感情をあらわにして本音を隠さない人は霧にならず

本音は隠すことはあるのが人霧。

知るだけが大切ではないということです。

・・・知った方がいいことも多いでしょうけど。

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