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「今言った通り私は気を失った理由を覚えていないのだが、キミの方は心当たりはあるかい?」
自分が倒れることとなった理由も知らないままというのも収まりが悪いので、駿河に問うが返ってきたのは否定だった。
「し、知りません! ええ、全くもって知りません! 何でなんでしょうね! アハハハハハハ」
顔を朱に染め両手を真横に何度も往復させるその姿は、どう見ても心当たりがないようには見えない。そのテンパリ具合はBL本を買うためにレジへ行くと、知り合いだった時を思わせるほどだ。……ひどく冷静な顔でカバーをかけるのはやめて欲しい。むしろ笑ってくれることがやさしさだと、なぜ気づいてくれないんだ。
「――知らないか。そうか、それならば仕方ないな」
そう言うと駿河はあからさまに胸を撫で下ろし、息をついた。……彼女はこれで嘘をついていないつもりなのだろうか。ふむ、一つカマをかけてみるか。引っかかりそうな気がするし。
「ところで、駿河くん。キミは知っているか? これはある大学が発表した事なんだが、人は嘘をつくと鼻筋に血管が浮くらしいぞ」
「う、嘘ですよね! 巫さん」
「ああ 嘘だ! だが……マヌケは見つかったようだな」
手のひらで鼻を隠す駿河に私は指を突きつけ、そう口にした。ぶっちゃけ、ノリノリだ。子供が夜の修学旅行で話す『巨乳と貧乳はどっちが萌える?』そのレベルくらい、私はノリノリだ。
駿河は私の発言と自分のしでかした行為に顔を青くしている。よく見ると冷や汗も流れているようだ。しかし、じぶんでやっておいてなんだが、よく騙されたものだ。イマドキ、幼稚園児でも通用しないだろうに。それだけ、純粋ということなのかもしれないな。
「さて、嘘ということはだ、駿河くん、キミはは私が倒れた原因を知っているということだね。そしてそれはキミの不利益につながることになる。だから、隠したのだろう。その点は心苦しいが、私も自分に関わることだから、妥協できなくてね。すまないが話してくれないか」
さすがにごまかしきれないと思ったのか、駿河は私の説得を聴き終えるとさっきまでの焦りは消え覚悟を決めたような表情で言った。
「実は僕男なんです!」
ふむ、なるほど、そうか。ではとりあえず、こう言っておこう。
「あ…ありのまま今起こった事を話すぜ! 『私はキミが女の子だと思っていたら、いつの間にか男の娘だと言われた』。な……何を言っているのかわからねーと思うが、私も何をされたのかわからなかった……頭がどうにかなりそうだった……性転換だとか去勢だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
私はどうしようもないほどに、混乱していた。