2
「……なんとも、まあ、非現実的なことだ」
ため息と共に私はそんな言葉をもらした。
普通の高校では考えられないくらいに品のあるクラスメイトに、二つ名で呼ばれる生徒、加えておまけに――
「――それらに誰もが疑問を持たない」
下品なことだが机に頬杖を付きつつ、談笑や照れた様子で二つ名で呼ばれている生徒をのぞき見ているクラスメート達を眺める。写真から眺める景色のような触れられない遠さを感じるのは、錯覚ではないのだろう。
細心の注意を払い、真心を込め、箱庭で育てられたことがわかるその様は、温室育ちという言葉を脳裏に浮かばせた。余談だが、天然温室育ちローズローションというものがネットで売っており、ワクテカして買ったのだがただの化粧水だったことは記憶に新しい。あのいくら手で弄んだところで、素敵に肌になじむだけだったのは敗北感を覚えたものだ。
少しばかり話がそれたが、要するに私とこの学園はあまり相性がよろしくないということだ。どうも違和感を感じ得てしょうがない。
理由はわかっている。それは私がいわゆる、お嬢様ではないからだ。豪邸ではなくごく普通のマンションに住み、両親ともに社長という肩書きはなく課長がせいぜいで、小中も公立の共学といういたって平凡な環境で育ってきた。本来ならば普通の公立高校を受験しそこに通うはずだったのだが、父の遠縁の親戚がこの学園に関わりがあるらしく、私さえよければ受験なしでここに入学させてくれるとのことだった。寮生活にはなるが費用も公立の高校とそう代わるものではなく、学力レベルも私に合っていたことと面倒な受験勉強をしなくていいという条件に目がくらみ私はここに入学した。
そしてこの学園はお嬢様学校だった。当然、共学ではない。わかっていたことだから、それはいい。だが、お嬢様という存在がここまで無垢だとは思っていなかった。
私は三度の飯より下ネタが好きである。上の口も下の口も大変滑りがいいと断言できる。ゆえに会話の半分は下ネタを混ぜたい。けれど、ここはお嬢様学校である。それも前記したとおり、大変品のよろしい方々ばかりだ。さて、そんな場所で下ネタを言えばどうなるだろうか。答えは簡単だ。
哀れまれた。軽い下ネタをジャブ代わりに言ったのだが、照れるのでもなく、引かれるわけでもなく、怒られるわけでもなく、ただただ哀れまれた。
下ネタを言うこと自体が何かの病気だと思われたらしい。流石に予想外の反応だった。というよりも、反応ができなかった。私は女性だし、特に下ネタはツッコミがあってナンボだ。それがなく、同情のように悲しまれても対処ができない。
私はここでは、下ネタが言えなかった。