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後悔というものは、突き詰めてしまえば何処にだって転がっている。選択肢の数だけと言えば大げさだが、人生を左右するようなものであれば嫌でも生まれてくるだろう。どんな道を選んだところでIFというものが、脳裏をかすめる限りは。そして、そういうものは決して消えることはない。コーヒーの底に残る溶け切らない砂糖のように、不確かな確かさを持って胸に残り続ける。
長々と小難しいことを考えているが、言いたいことは単純だ。
間違った、やり直したい。要は、そういうことだ。BL本を表紙で判断し買ったものの、実際見ると残念だった時のように私の浅慮に無念をを抱かずにはいられない日々ばかりだ。
なぜ、私はこの高校を選んだのだろう?
思案にふける私をよそにクラスメイト達は楽しげに、談笑をしている。
どこにでもある光景だ。きっと中にはこっそりピンクローターを使い、危険なプレイに勤しんでいる者もいるだろう。まあそれはさておき、珍しい景色ではないが、少しばかり普通とは違う。品が良すぎるのだ。
大口を開けて笑うものもいなければ、机の上に座るようなものもいない、服装も着崩している者はいない。なにより、華がありすぎる。
女子高とはいえ見回す限り美女しかおらず、一目でわかるほど育ちの良さが見て取れる等、どこの漫画だと言いたくなる。おまけに、それだけではない。
「あら、ガブリエルの百合様がご登校なさったわ!」
そんな黄色い声と共に教室に入ってきたのは、一人の少女だ。
星屑をとかした夜のような艶のある黒髪を腰まで伸ばし、少しばかりきつい印象を与えるが切れ長の瞳に、整った鼻梁、桜色の唇は真一文字を象っているが、形の良さは隠せない。背も高く、スレンダーなモデル体型だ。美人ばかりのこの高校でも、一際レベルの違いがうかがえるそんな人だ。その証拠のように入学してから、一月も経っていないというのにガブリエルの百合なんて中二病真っ青な名前で呼ばれている。何でも、大天使の名前がつく称号はこの高校の伝統であり、一年生にも関わらず得られるなんてことは凄まじいことらしい。もっとも、容姿だけでなく、一年生で一番成績が良く、運動の方も才に恵まれているという才女には当然のことなのかもしれないが。
ちなみに私は、彼女のようなタイプはエロ漫画などに出るとピンクローターで調教されそうなイメージがあるので、心の中ではピンクさんと呼んでいる。
運がいいのか悪いのか、中二病的な二つ名を持つ人はこのクラスにはもう一人いる。
「今度はウリエルの薔薇様もご登校なさったわ!」
またしても上がる黄色い声に導かれるようにして現れたのは、輝くような銀髪の少女だ。長いプラチナブロンドは後頭部でひとまとめにし、猫を思わせる大きな瞳に、口元はどこか妖艶さをかもしだしている。背が高く、体型もスレンダーだというのに、立ち振舞いからどこか艶が溢れていた。
カワイイよりは綺麗系のせいか、どこか宝塚を連想させあだ名のような呼称にバラが入っているのは似合っているように感じる。美人ゆえにウリエルの薔薇などというご大層な二つ名も浮いていはいない。自分に子供が出来た時、絶対バレたくない事実だなとは思うが。ウリエルの薔薇(笑)とか言われたら、涙目になる自信がある。
ちなみに私は、彼女のようなタイプはエロ漫画などに出るとレイプされてなんだかんだでアヘ顔になりそうなイメージがあるので、心の中ではピースさんと呼んでいる。